上尾中央総合病院心臓血管センター長・一色高明氏に聞く
(2)医療DXの壁を超える──救急医療とテクノロジーの間に人が果たす役割

STORYおすすめ
聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

日本の医療でDXが進まないのは国民性ゆえ?

桐原 日本は先端医療機器の開発も諸外国に比べたらけっして低いレベルではないのに、なかなか医療においてDXが進んでいるように見えないのはどういうことなのでしょうか。

一色 確かに進んでいるとは言い難いですね。欧米だと、マイポータルに自分のバイタル、病歴、薬の情報などがアップされていて、もちろん安全性を確保したうえで医師が閲覧できるようになっています。データ管理とデータ活用ができている印象です。

桐原 なぜそれが日本でできないんでしょうか。

一色 国民がそれを望んでないからですよね。マイナンバーカードすら望んでいませんから。

桐原 そこに行き着くわけですね。

一色 プライベートのことを管理されるのを嫌がっている国民性がありますよね。日本人にとっては、病気は人に知られたくない秘密なんだと思います。

桐原 そうとう機微な超個人情報という感覚なんですかね。

一色 そうだと思います。ここの先生に診てもらっている病気の情報をあっちの先生に渡すことすら嫌なのはそういう理由だと思います。日本人はもう少し病気に関してサイエンスとしての観点を持った方がいいなと思います。

桐原 なるほど。なにかの失敗のような捉え方になりがちですよね。医療者のお立場からすると、そうしたデータの一元化が進んだほうが便利ですよね。

一色 もちろんですよ。いままでどういう治療をしてきたかとか、どういう病気にかかっているのか、それを聞き出すのにほんとに時間がかかりますから。言ってもらわないとわからないし、言わない人もいます。

桐原 家族に聞いてやっとわかったみたいな。

一色 後になって、こんな薬飲んでいたの、とかね。いまはお薬手帳があるからだいぶわかるようになりましたが、お薬手帳をわざと使わない人もいますから。とにかく、信用をしてもらうまで情報は出てこないですよ。

桐原 そこは独特ですね。他人に知られたくないということもあるし、自分で自分のデータを管理しようという意識も希薄ですね。

一色 私が1984年にアメリカに留学したとき、ソーシャル・セキュリティー・ナンバーがすぐに発行されました。アメリカはそういう社会でずっとやってきていて、背番号だけで全部データも把握されている社会です。中国はもっとすごくて、顔見ただけで全部データが出てくる。そう思うと日本は独特だと思いますね。

桐原 皆保険制度が昔からありながらも、DXが進まないのは国民性があったんですね。お上に把握されるのは嫌、みたいな。

一色 もう、絶対嫌でしょうね。

桐原 医療では、自分のデータを提供することで自分にも必ずとメリットがあることだとすると、どうして進まないかというのは変な感じがしますね。ところで、新しいテクノロジーに対する医療者側の抵抗感みたいなものはありますか。

一色 ドクターは意外と新しいもの好きですよ。

桐原 そうなんですね。

一色 ただ、役に立つかどうかということにはシビアだと思います。とりあえずやってみるという形はあまり好きじゃない。だって患者さんのためにならないといけないから。本当に有効性が確認されて、患者さんの利益になるんだったらすぐにやりたいという人はたくさんいると思います。

桐原 冒頭に伺った心筋梗塞の治療方法の進化もすぐに広がるわけですか。

一色 あれは早いですよ。どこかの先生がすごく成績がいいということを学会とか勉強会で発表すると、じゃあやってみようかという話になりますから。

桐原 今回の先生の論文発表で、プレホスピタル心電図がわっと広がる可能性がありますね。

一色 どのぐらいのインパクトがあるか、楽しみにしています。

1 2 3 4 5