東京大学 先端科学技術研究センター 吉村 有司氏に聞く
(2)都市づくりに新たな視点「アーバン・サイエンス」の可能性
コミュニティを醸成するデジタルテクノロジー
今後のまちづくりを考えていくうえで、重要なポイントは何でしょう。
吉村 住民がまちづくりを自分たちのこととして考え、合意を形成していく、というプロセスが大切だと思います。コミュニティが見えづらい、ということについては、さほど悲観的になることもないかと思います。テクノロジーに後押しされたコミュニティというのも生まれてきていますから。学生たちはよく「スプラトゥーン 3」というゲームの話をしています。数人でチームをつくり、ゲーム上の空間に色を塗って縄張りを広げるゲームですが、彼らの話に耳を傾けてみると「今夜 1:30 に集合しよう」と、オンライン上の集合時間を相談したりしている。フィジカルに対面する機会は減っているかもしれませんが、その上にバーチャルなコミュニケーションは多く発生しているので、さまざまな可能性があるだろうと思います。
アンビルト建築といわれていたものをメタバース上で設計するように、今の子どもたちの想像力が生かされる機会は増えるかもしれないですね。
吉村 今年(2022年) 12 月に、高等専門学校の「デザコン(全国高等専門学校デザインコンペティション)」が開催され、僕は創造デザイン部門の審査委員長を務めました。今回のテーマは現在、国土交通省が進めている 3D 都市モデルのプロジェクト PLATEAU を使った地方創生です。どんなものが出てくるだろう、と楽しみにして臨んだのですが、実際の応募作品に向かうと、心底感動しました。発想の広さや柔軟性がふんだんに発揮されていて、霞が関や大企業からは出てこないようなアイデアに溢れたものばかりでした。こうした人材が育っていけば、都市計画やまちづくりの未来は明るいのではないか、と思いましたよ。

吉村 建築も含んでよいと思うのですが、都市計画やまちづくりといった分野にはデジタルテクノロジーがほとんど入ってきていません。その大きな原因は、こうした技術を扱える人材がいない、ということにあります。その意味で、都市計画やまちづくりには、これからするべきことは山ほどあります。若い人たちに、どんどん参入してきてほしいですし、ICTの知識やプログラミング技術を持ちながら都市のことを考えていく人たちにとっては、活躍の場がたくさんあると思います。
先ほどご紹介いただいた「デザコン」で、各地の高専から地方創生アイデアが溢れ出てきた、というのも頼もしく思えます。ジェイン・ジェイコブズは、地方と都市とは相補的な関係だと論じていますが、現在の都市と地方との関係は、もっと複雑だと思います。
吉村 僕自身は、都市から自家用車を少なくして、歩いて楽しいウォーカブルなまちづくりを推進する立場で研究をしています。ただし、歩いて楽しい、という前提には、公共交通機関がしっかりしていて、自家用車を持たなくても生活できることがあります。自家用車がなければ生活できない地方はたくさんありますし、そこで都市と同じ設計ができるわけではありません。地方には地方の生活構造がありますから。たとえば郊外には巨大ショッピングモールがあって、そこを中心に商業活動が行われているから、モール内をウォーカブルにする、という発想もあります。
実際にショッピングモールには、異世代のコミュニティが生まれる動線が設計されていることも多いそうですね。AI による自動運転とショッピングモール、という組み合わせが有効になる可能性も考えられますね。
吉村 とはいえ、そうすると駅前の商店街をどうするか、ということも考えなければなりません。そうしたことも含めて、中央都市と地方との関係性も、新しい観点で総合的に考えなければならないと思います。
ショッピングモールが空疎化して治安に影響を与える、という事例も聞かれます。
吉村 人々の生活する場において、当初設計した思惑通りの機能がずっと維持されるとは限りません。硬直化を防ぎ、街を有機的なものにするためにも、変化する住民の生活をフィードバックできるまちづくりが必要です。
関連記事
-
FEATURE2025.03.10iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長・中村伊知哉氏に聞く
第1回 成功体験が生んだ停滞──テレビはネット時代に適応できるか2025.03.10聞き手 桐原 永叔 -
FEATURE2023.09.04東京女子大学現代教養学部准教授・大谷弘氏に聞く
(1)LLM(大規模言語モデル)は「言語ゲーム」的か2023.09.04聞き手 都築 正明(IT批評編集部)/桐原永叔(IT批評編集長) -
REVIEW2022.01.05一休宗純、ラース・フォン・トリアー、サリンジャーから読み解く、芸術・哲学・常識の破壊と創造
常識を嘲笑うことができなければ、芸術も哲学も私たちをただ不自由にする2022.01.05テキスト 桐原 永叔