ERATO 脳 AI 融合プロジェクトメンバー 紺野大地氏に聞く
(1) 脳とAIの融合が変える未来

FEATUREおすすめ
聞き手 都築 正明
IT批評編集部

脳の活動が可視化されることで医療診断も大きく変わる

  4つめの「脳脳融合」はどういったものでしょう。

紺野 これまでご説明した 3 つのアプローチは、デバイスや環境と脳との相互作用ですが、この 4 つめの「脳脳融合」については、脳と脳とを直接繋いでしまうという発想です。私がいま頭の中で想像している言葉をみなさんに直接伝えるテレパシーのようなことも考えられますし、さらに言葉にはできないような感覚、たとえば私が感じる赤い色をダイレクトに伝えることも考えられます。また、痛みの感覚などを伝えることも可能だと思っています。

  たとえば頭痛のとき、医師に「ズキズキ痛みますか、それともシクシク痛みますか」と聞かれて「どちらかというとキリキリ痛みます」と答えたりしつつ、そのオノマトペが正確かどうか不安になることがあります。

紺野 確かにそういった症状の伝達にも使えますね。

抑うつ症状をそのまま伝えることが可能になると、神経症の患者さんにたいする治療も大きく変わりそうですね。

紺野 うつなどの神経症については、今のところ明確なバイオマーカーがありませんから、診断や治療の多くが医師の経験則などに委ねられています。脳の活動が可視化されることで、そういった診断が大きく変わるだけでなく、より多くの患者さんに届くものになるかと思います。

第 2 次 AI ブームまでの AI はルールベースでできていたので、バイオマーカーのあるものをルールに基づいて演繹的に処理することに秀でていました。第 3 次 AI のディープラーニングでは、帰納的な手法でアウトプットがなされるので、バイオマーカーのないものを扱うことが得意になってきた、ということでしょうか。ブラックボックス化は進んだけれども、そのブラックボックス性ゆえに判断できることもある、というような。

紺野 そうだと思います。 血圧が高いから高血圧、血糖値が高いから糖尿病と診断されるのは人間として納得感は高いのですが、この先、精神疾患への 応用が高まっていくと、例えばこういう目線の動きをした時はうつ病だ、ということも出てくると思います。さらには目の動きだけでなく、うつ病の患者さんで顕著に高い何らかの特徴があり、理由はわからないけれど、診断基準として精度が高い、ということが今後必ず出てくると思います。理由はわからなくても、それが正確であれば、医学的には役立ちますし、そこから研究が進んでいくこともあります。ペニシリンなどの抗生剤は、発見当初はどうして効くのかがわかりませんでしたが、人が治癒していくシステムが解明されていきました。もしかしたら、将来的に精神疾患研究のブレークスルーも、そういったことから起こるかもしれません。

現在、教育の現場では多くの子どもが LD(Learning Disability:学習障害) や ADHD(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠陥・多動性障害)などの発達障害であると判定されます。ただし医療側には、小児科と精神科の一部ぐらいの受け皿しかありません。こうした現状に、先生の研究が役立つことがあるでしょうか。

紺野 アプローチ 2 の脳 AI 融合には、AI が自分だけでは出せないような問題の解答を教えてくれて、それを繰り返してトレーニングするうちに、自分 1 人でも解けるようになる、というコンセプトがあります。ですから、LD のように学習のどこかのフェーズに問題があるような場合にはそこをバイパスする、もしくは克服するような学習の仕方を実現できるといいな、と思います。

学校の教員が恣意的に発達障害の判定をするよりも、発話や行動の類型を解析して、科学的に判定できると、子どもの将来への道筋がつけやすいと思うのですが。

紺野 確かにそれはできそうな気がします。

出典:BCI研究が描く2050年の医療(栁澤琢史,池谷裕二,金井良太,川合謙介,西村幸男)2022.01.03 週刊医学界新聞(通常号)

疾患中心の医療から個人中心のオーダーメイド医療へ、ということも、かなり精度が高く実現できそうですね。

紺野 研究をしていて、そこはこれまでと大きく変わっていくだろうと実感しています。

1 2 3