ERATO 脳 AI 融合プロジェクトメンバー 紺野大地氏に聞く
(1) 脳とAIの融合が変える未来

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

知覚を拡張する「脳 AI 融合」

2 つめの「脳 AI 融合」についてお聞かせください。

紺野 「脳 AI 融合」は、脳が実際に感じているにもかかわらず個体として活用できていない情報を、AI を用いて利用可能にするアプローチです。利用可能になった情報を脳にフィードバックすることで脳機能を拡張することができるのではないか、と考えています。たとえば私たちの研究室では、ネズミが英語とスペイン語を聞き分けられるか、という研究をしています。そのままの状態では、ネズミは 2 つの言語を聞き分けることはできません。ただし、英語とスペイン語とでは、使用する音が違う――つまり鼓膜の振動のレベルでは異なります。鼓膜から脳に入る最初の領域として一次聴覚野という部位があるのですが、この一次聴覚野の段階でも、英語とスペイン語を聞いた時の脳の活動が違うというところまでが、実験でわかりました。つまり、英語とスペイン語とは、脳に入ってきた時点では違う情報だということです。2 つの用語の聞き分けができないのは、一次聴覚野よりも先の意思決定に至るまでの時点で区別ができなくなっているからです。私たちが注目しているのは、脳の中に情報はあってもそれを使えていない、ということです。情報として異なるのであれば、それぞれの言語を聞いたときの脳の活動を AI によって分類して「これは英語です、これはスペイン語です」と脳にフィードバックすれば、聞いたものが英語なのかスペイン語なのかを、認識することになります。いわば AI に教わるように、その都度それぞれの言語を認識する、ということを繰り返していき、いずれ AI による分類なしで英語とスペイン語の聞き分けができるようになれば、脳の機能が AI の力を借りて拡張されたと考えられる──私たちはそう考えています。この応用としては、私たち日本人が苦手とされる英語の“L” と“R”の聞き分けもできそうですし、絶対音感のない人が絶対音感を身につけるといったことにも使えるのではないかと考えています。

学習というよりも、知覚を拡張するわけですね。

紺野 はい。今までできたことをより早く・より正確に、というよりは、今まで人間ができなかったようなことを可能にしたいと考えています。

3 つめの「インターネット脳」についてはいかがでしょう。

紺野 脳活動だけを使って IoT 機器のスイッチを切り替えたり、その人が頭の中に思い浮かべている言葉をインターネット検索して、検索結果を返してあげることを考えています。現在はネズミが脳波によって部屋の明るさをコントロールする実験を進めています。

実現すれば、医学的な意義は相当高いものになりそうですね。

紺野 そうですね。まずは ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis:筋萎縮性側索硬化症) や四肢麻痺の患者さんにご利用いただけると思います。将来的に、健康な人にも応用できれば、念じるだけで検索する、といったこともできると思っています。

従来そういった病気を持たれている方は視線の動きと 50 音表をつかった会話などをしていました。また、参議院では発話障害を持つれいわ新選組の天畠大輔議員が独自の「あかさたな話法」で質問して話題にもなりました。

紺野 脳の活動だけでの会話が可能になることで、そういった患者さんの負担も少なくなってほしい、というのが私たちの思いです。将来的には、健康な人も利用できるようになればよいと思っています。

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