テレワーク時代の法人向けネットワークサービスのあり方
――ソニービズネットワークス代表・小笠原康貴氏に聞く(2)

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取材・構成  土田 修
IT批評編集部

変化のスピードが速い時代に、ニーズにいち早く対応しサービスを届けるためにはどんな条件が必要か。働き方に関するルールや常識がどんどん変化していく時代に、総務をサポートするツールはどうあるべきか。「ハイブリッドな働き方」をキーワードに、クラウド時代のネットワークサービスのあり方について伺った。

取材:2021年11月12日 ソニービズネットワークス本社

 

 

小笠原康貴(おがさわら・やすたか)

ソニービズネットワークス株式会社代表取締役社長。1996年、日本電信電話(NTT)に入社し、技術開発や事業企画などに携わった後、2001年にソニーへ転職。同じく通信事業の技術開発を担い、「So-net」や「NURO 光」を手掛けるソニーネットワークコミュニケーションズにも籍を置く。2018年にはソニーネットワークコミュニケーションズの子会社であるソニービズネットワークスにも加わり、法人事業の拡大に注力。副社長を経て、2020年6月から現職。

ソニービズネットワークスHP:https://sonybn.co.jp/

Somu-lier[ソムリエ]HP:https://www.somu-lier.jp/

 

 

【目次】

完璧を期すよりも欲しい機能を早く届ける方が重要

開発手法を変える前に文化を変えなければアジャイルにならない

次の変革期で日本が勝つためにAI普及に取り組む

ハイブリッドな働き方が増えることで総務の仕事も大きく変わる

ハイブリッドの時代には安定したネットワークが事業活動の生命線になる

 

 

完璧を期すよりも欲しい機能を早く届ける方が重要

 

クラウド型の勤怠管理システム「AKASHI」をスタートする以前から、働き方に関するルールや常識がどんどん変化していくのを肌で感じていました。この変化のスピードに対応できるアーキテクチャをつくることを、AKASHIを始めるときから決めていました。

当時、お恥ずかしい話ですがシステムのバージョンアップは年に1回程度でした。そこで、AKASHIをリリースする際に、週に1回バージョンアップするぞと宣言したのです。

無料トライアルの人が「ここの機能はどうにかなりませんか」と問い合わせてきたときに、そういった問題が、無料期間が終わる前に直っていたらかっこいいじゃないですか。

それまで年1回しかバージョンアップしていなかったので、開発陣は「できない」「ありえない」と言っていたのですが、結果的にはできています。この5年間、週1回バージョンアップを継続してきています。QAに膨大な時間をかけて完璧に間違いないものをリリースしても多少のバグは出てきてしまいます。セキュリティなど重要な部分のQAには、時間をかけるなど、QAには、メリハリをしっかりした上で、運用で出てきたバグをすぐに修正するという修正速度の向上に考え方をシフトしました。

今、アジャイル開発は当たり前ですが、当時としては珍しかったと思います。とにかく週1回バージョンアップするということを先に決めてしまったというのが大きいですね。週1実装する優先順位を決めてバージョンアップを繰り返すと、仮に1年間で200個機能を増やす計画を立てても、1年経ってみると、実は半分ぐらいしか実装していなかったりします。残りの半分は状況の変化で必要でなくなるのですね。むしろ、その時々にニーズに対応することの方が重要です。それこそコロナ禍なんて、2019年には影も形もありませんでしたが、2020年春にはテレワーク機能の優先順位が突然上がったりするわけです。

開発期間を長くとりすぎると、その時々で本当に必要なものが無視されてしまいかねない恐れがあります。開発期間や周期を短くすることで、よりリアルタイムに最適な機能が実装できるようになりました。

長い期間で開発することに慣れてしまうと、コロナ禍のような問題が起きて短期間での開発が必要になっても、その開発速度から逸脱できないことが問題です。早い周期での開発に慣れている人たちは、時代が急激に変わった瞬間にやらなくてはならないと臨戦態勢に入れます。2020年の2月に新型コロナが流行しはじめたときに、テレワーク機能を入れようという話を開発の人間と立ち話でしたことがあって、3週間後には実装されて世の中に出ていました。なにかがあったときに動く速度が、普段練習をしているか、していないかで、ずいぶん違うと思います。こういうVUCAの時代には、そういったフットワークの軽さが重要になってくるでしょう。

 

 

開発手法を変える前に文化を変えなければアジャイルにならない

 

IT業界だからみんながアジャイルなわけではなくて、これは組織の文化を変えないとできないことです。開発手法を変える前に文化を変えなければうまくいきません。私自身が「1週間でやろう」「1カ月で開発しよう」と、意識して啓発してきた部分でもあります。

文化を変えるために、組織編成を変えたことも大きかったです。それまでタテ割りになっていた、営業、企画、開発を一つの組織に入れたのです。一つの課の中に全部入れてしまうことで、組織の壁をなくしていきました。とにかく同じ目的を共有している人たちを近くに置いて、速度を上げようということです。それまでは、うまくいかないのは営業のせいだ、開発のせいだ、と言っていたのですが、一つの組織にすることで、人のせいにできない雰囲気ができました。

組織がタテ割りだと、それぞれにKPIがあって、例えばそれは開発陣にとっては「実装の正確性」だったりするのですが、同じ組織にすることで、みんながサービス契約数をKPIとし、同じKPIを共有して同じ方向に向かって、同じ速度で取り組めるようになります。開発陣も「実装の正確性」は、KPIではなく、サービス契約数実現のための必要事項にかわりました。

今では開発のリーダーも営業と一緒にお客さんのところに行きますし、展示会の説明員を務めるようにもなるなど、ずいぶん変わってきていると思います。日常的なコミュニケーションの中でしか、文化は変わっていかないということを身をもって知りました。

また、自分たちが使うことも、ユーザーにどんどん使ってもらうことも重要です。ユーザーからの意見を吸い上げることで、自分たち自身を変革していくことの駆動力になっているなと感じます。

 

 

 

 

次の変革期で日本が勝つためにAI普及に取り組む

 

2020年8月に、AIを搭載した「Prediction One(プレディクションワン)」をリリースしました。数クリックの操作で膨大なデータを解析し、高度な予測分析を自動実行できるツールです。Prediction Oneは、製品開発は親会社であるソニーネットワークコミュニケーションズが担当して、私たちは販社の役割を担っています。私はソニービズネットワークスの社長ですが、ソニーネットワークコミュニケーションズの法人サービス事業部の副事業部長でもあるので、開発と販売を兼任している感じですね。

まだまだ、Prediction Oneはすごく売れているというわけではありませんが、ニーズの高さは非常に感じています。展示会でも最も人を集めるサービスです。

AIを普及させることをいちばんの目的に置いています。美容室やカレー屋さんなど特別な知識がない人たちが使えるAIにしたいので、簡単に利用できるサービスを普及価格帯に設定しています。

普及価格帯を設定した理由として、インターネット変革期、つまりブロードバンドになってITが加速したときに、日本は出遅れてしまったという反省があります。その中心で関わってきた私としてはすごく歯痒い思いがありました。30年前の時価総額ランキングでは上位に日本企業がずいぶん入っていましたが、今はトヨタぐらいですね。

もう一回、日本企業が巻き返すタイミングがあるはずです。巻き返すにはAIの活用が欠かせません。AmazonのAWSみたいに高度なプロダクト商品をつくってそれを大規模に展開することは、私たちみたいな従業員300人の会社がやるのは無理ですが、Prediction Oneのようなデータ分析ソフトウェアを広く一般的に使ってもらうことはできるはずです。日本中の企業がAIを使う、それこそカレー屋さんでも美容室でもみんなAIで分析しているという状況を日本で実現できれば、この次にくる変革期では、世界にプレゼンスを示すことができるでしょう。

もちろんAIやブロックチェーンを開発する人材の流出など、たくさん課題はあるのですが、自分たちでコントロールできないことを案じても仕方がないので、できることをやっていこうと思います。普及価格帯での挑戦はそのための選択肢です。しかも数あるAIのなかでも様々な会社に適応しやすい商品ということころも大事だと考えています。

 

 

ハイブリッドな働き方が増えることで総務の仕事も大きく変わる

 

クラウド型勤務支援ツールである「somu-lier tool(ソムリエツール)」には、始業前に従業員が体温や体調を報告する体調管理機能があります。この機能は実際にソニービズネットワークスが新型コロナウイルス感染対策のため、テレワークに移行した際の気付きがきっかけで開発されました。

今、テレワークが定着する傾向があるなかで、精神面も含めた社員の健康維持に注目が集まっています。当社もコロナ禍において、テレワークにおける社員の健康管理に課題を感じていました。マイクロソフトオフィスに付属しているアンケート機能を使ってフォームをつくり、社員に体調はどうですかというアンケートを日々とっていたのですが、これからの時代、社員のコンディションをきちんと把握することが求められてくるだろうと考え、社員のコンディション見える化ツールとして「somu-lier tool」を開発しました。

新型コロナウイルスが収束して以前の働き方に戻るかというと、おそらく出社とテレワークのハイブリッドになるでしょう。テレワークで顔が見えない不安感というのは、アフターコロナでも解決するべき課題として残ると思います。

このツールを使うことによって、会社側としては、具合が悪いとにきに具合が悪いと言っていいですよと示していることになります。それは精神面でも体調面でもです。テレワークでの課題は、空気を読むという行為が難しく、情報は能動的に発信しないと共有できません。そのため具合が悪くても無理してしまいがちになります。実際にツールで具合が悪いときに具合が悪いと言ってよいと示していることは、インプットする以上の効果があるのではないかと感じています。実際、私の会社でも、ツールを使うことで社内の雰囲気が変わるのを目の当たりにしています。

ソニービズネットワークスはどこにある会社ですかと聞かれて、渋谷のマークシティですと答えられる時代ではなくなっています。なぜなら社員の半分は仮想空間で仕事が成立しているからです。そうなると、総務やHRの仕事もこれまでよりも大きな領域を相手にしなければならなくなります。しかし、人的リソースには限界がありますから、補助的なツールを使っていかないと無理だと思います。明らかに社員の働き方が変わっているわけですから、それに対応するやり方も変わらざるを得ないはずです。新型コロナウイルスの感染対策だけの過渡的な対応では済まないというのが私の考えです。

 

 

ハイブリッドの時代には安定したネットワークが事業活動の生命線になる

 

総務・HRのDXはまだまだこれからです。帳簿をエクセルに変えただけでは、まだデジタル化止まりだという気がします。さらにAIなどの技術を活用することで、DXと呼ぶにふさわしい変化を遂げるのだと思います。構造化データと非構造化データが組み合わされて、次のDXが始まると予想しています。大多数の企業では、今はまだ、構造化データにすることを総務・HRはやっている最中だと思います。

最後に今一度、出社とテレワークのハイブリッドという視点で見ると、ネットワークのクオリティがますます問われるようになるというのが私の持論です。例えば、10名で会議を行う場合、以前は会社で全員顔を合わせてアナログで会議をやっていましたが、今は会議出席者10名中3名がテレワークですと言った瞬間に、会社にいる7名が意外とバラバラに会社からビデオ会議につないで7本の通信が発生し、ネットワークにデータ通信が流れます。どれだけ安定したネットワークを構築しているかが、会社が事業活動をしていく上では非常に大きな要素になってくるので、「NUROアクセス」という商品はこれからの時代にさらに有望なサービスだと思っています。ネットワークのことを理解してサービスを作ってきた会社だからこそ、ハイブリッドの時代にみなさんの事業を支えていくクオリティの高いサービスを投入していきたいと思っています。(了)

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