データとエビデンスで教育を変える ― LA(Learning Analytics)の視点から
京都大学学術情報メディアセンター教授 緒方広明氏に聞く(1)
自己主導能力を支援するEXAIT
現在はどのような研究に取り組まれているのでしょうか。
緒方 データを基に、AIが個別最適な教材を推薦したり、学び方をアドバイスをしたりするAIシステムの研究をしています。AIが課題を出したりするシステムはこれまでにもあったのですが、どうしてその課題が出されたのかを説明するのかはブラックボックス化されていました。私たちが開発中のEXAIT(Educational Explainable AI Tools:教育用説明可能AIツール)では、AIが教材や学び方のアドバイスを生成することで、AIへの信頼と学習への納得感が持てるようにしています。
その説明の教師モデルはどこになるのでしょう。
緒方 学習者の思考プロセスを学習者自身が言語化して説明する自己説明をAIが学習します。学習者は、まずタブレットのスタイラスペンを用いて「BookRoll」で問題を解きます。その際のペンの動きや書かれた内容がログとして動画保存されます。次に、学習者がこの動画を再生しながら自分の考え方のプロセスをキーボードで入力します。AIはこの手書きのデータと説明のテキストデータを分析して、学習者のつまづいているポイントを自動判定して、そのポイントに応じた問題を推薦します。出題と同時に、なぜその問題が推薦されたのかという理由も提示されます。
学習者がAIに向けてプレゼンテーションをしてみせて、AIはそれを学習して他のデータと併せて課題と判断理由を提示するわけですね。
緒方 ブラックボックス化している学習者の思考プロセスを言語化して明らかにしていき、AIはブラックボックス化している課題の推薦理由を明らかにしていくという共進化の発想です。
機械を前に学習するというと、ゲーム的に先に進んでしまう危惧がありますが、自分の理解を確かめるステップがあるわけですね。自分が本当に理解しているかどうかを自分にもAIにも問いかけるという。
緒方 そうですね。学校の先生たちと話をしていても、自分で学ぶ力を身につけてほしいとおっしゃいます。内容そのものよりも、学ぶ過程で自分がどう学んだかということを振り返ってみながら、自主的にどんどん学ぶ力ですね。私たちはこうした自己主導能力を支援するGOAL(Goal Oriented Active Learner)システムというものを開発しました。自分で目標を設定して、ゴールに向かってどう学習したのかを振り返っていけるような仕組みです。たとえば英語を多読するカリキュラムでは、学習者が自分の「BookRoll」の閲覧履歴を基に自分で本を選んで英文を読んで、進捗をチェックしながら要点をまとめたりします。早い子どもだと、1週間に数百ページの分厚い本を読み終えたりします。
目標をクリアするほか、学習への取り組み方なども見ることができるのでしょうか。
緒方 夏休みの宿題では、コツコツこなすタイプの子どももいれば、最初にたくさん進めてしまうタイプもいます。最初は私たちもコツコツこなすほうがよいだろうと思っていましたが、あまり関係ありませんでした。一通りすませた後で、わかりにくかったところを振り返って、できるまで考えてみた子どもの理解度が高く、それがテストの結果にも表れました。こうしたことをエビデンスとして、翌年の夏休みには、1回だけでおしまいにするのではなく、見直しをしてみて、もう1度行うシステムにすると、結果のスコアも高くなりました。終わったことを振り返って確認するのは、子どもたちにとってなかなか難しいことですが、理解するというプロセスを経ると、その内容はしっかり定着することがわかりました。
既存の学説にあてはめるとヴィゴツキーの「発達の最近接領域(今はひとりではできないが、大人など周囲のサポートがあればできるようになる領域)」ということになるかもしれませんが、これまで個々の内面に関わることを定量化して示されたわけですよね。
緒方 そうなんです。