各種SNSの人間関係構造と日本文化への適応
ソーシャルメディア時代の覇権を握るのはどこか?~ソーシャルグラフから見る日本のSNS

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著者 池田紀行・池田勇人

ネット上の人間関係(バーチャルグラフ)、グリー、モバゲー

さて、残り2つのSNSであるグリーとモバゲータウンに話を移しましょう。

この2つのプラットフォームは、基本的にはソーシャルゲームを主眼にしたサービスであり、そこで形成される人間関係の「リアルさ」は他サービスに比べると大分劣ります。モバゲーを運営するディー・エヌ・エー(DeNA)の守安功取締役も、ミクシィとの提携にあたって「ミクシィはソーシャルグラフ、モバゲータウンは『バーチャルグラフ』だ」という発言を残しています。

ツイッターやFacebookでの人間関係に慣れたユーザーがモバゲーやグリーを利用すると、これらのサービスで展開されるソーシャルグラフの特異さに直面します。ほとんどのユーザーは匿名で利用しており、そこでの友人関係は多くの場合「ゲーム仲間」以上のものではありません。もちろん中にはリアルな人間関係を築いているユーザーもいますが、大半はゲーム以外には深い接点を持たない「見知らぬ人」とのつながりであり、事業者側もそうした関係性を是としています。バーチャルグラフはその名の通り、仮想的な人間関係であり、現実生活には直結しません。その有効性は、友人関係を利用したゲームである「ソーシャルゲーム」以外では通常発揮されることがないのです。ソーシャルゲームのみで完結する場合には何の問題もありませんが、後述する「ソーシャルウェブ」時代には、バーチャルグラフは高い価値を持つとはいえないと考えています。

ソーシャルメディアからソーシャルウェブへ

最近のウェブにおける重要なトレンドとしては、ソーシャルグラフがオープン化され、従来SNSに閉じられていたソーシャルな体験が、ウェブ全体にまで広がっていることが挙げられます。ソーシャルグラフのオープン化によって、「ソーシャルウェブ」時代が幕を開けたとも言えるでしょう。

Facebookは2010年4月末に、ユーザーのソーシャルグラフをオープン化する、という発表を行いました。これによって、これまでソーシャルグラフをサポートしていなかったレビューサイトやブログ、ショッピングサイトなどにも、ソーシャルグラフの反映が可能になりました。

例えばアマゾン(米)は、この機能を利用して、「Facebook上の友人が気に入った商品」をアマゾン内で優先的に表示するシステムを実装しました。同様にCNNでは「Facebook上の友人が気に入った記事」を知ることができます。その他多くのブログやニュースサイトで、「Facebook上の友人の気に入った記事」を知ることができるようになっています。

これまでのウェブは画一的であり、例えばニュースサイトに訪れた場合も、ニュースの順番や表示の方法は全ての読者に同じものが提供されていました。

ソーシャルグラフを利用することによって、ウェブ体験は個人向けにカスタマイズされます。ニュースサイトを訪れた時、同業の友人が気に入っている記事や、ユーザー本人が気に入りそうな記事を優先表示するといったことが可能になるのです。

ソーシャルグラフの活用は、今後も様々なウェブサービスに広がっていくと考えられます。検索もその例外ではなく、マイクロソフトの検索エンジン「Bing」は先日Facebookのソーシャルグラフの反映を発表しました。「ソーシャル検索」のユーザー体験は強力で、例えば映画作品やレストランを検索すると、自分の友人がその作品や店舗を気に入っているかどうか、といった情報まで得ることができます。

ソーシャル化のメリットはユーザーにとって大きなものです。将来的には、ほとんど全てのウェブサービスにソーシャルグラフが反映されるようになると思います。Facebookは自社のソーシャルグラフを全世界のウェブに展開することで、強力なプラットフォームとなることができます。いずれはディスプレイ画面を超えて、冷蔵庫や調理家電、セキュリティシステムなどにもFacebookのソーシャルグラフが反映されるかも知れません。そうなった時、Facebookは、グーグルやアップルとはまた違う、「ソーシャルグラフ・プラットフォーム」となるでしょう。

一方で、国産SNSの雄であるミクシィは、オープン化において一歩遅れを取っています。

Facebookの発表から遅れること約半年、2010年9月にミクシィも自社のソーシャルグラフをオープン化することを明らかにしました。楽天、ぐるなび、カカクコムなどの事業者がオープン化されたミクシィの機能を既に利用しています。しかしながらFacebookと同水準のオープン化はまだ実現されておらず、スピード感は残念ながらやや劣っています。

また、平均の友人数が少ないミクシィの場合はソーシャルグラフがオープン化されたとしても、外部サイトに反映される情報の量が総じて少なくなります。外部サイトにおけるユーザーのソーシャル体験をいかに増やしていくかが、オープン化の成否に大きく関わってくるでしょう。

ソーシャルウェブ時代の覇権を握るのは誰か

今、最もホットなテーマは、全世界で5億人のユーザー数を持つFacebookがどこまで日本に浸透するか、というものでしょう。この原稿を書いている時点では、Facebookの国内ユーザーは150万〜200万人程度です。軒並み2000万人以上のユーザーを持つミクシィ、グリー、モバゲーと比べるとまだまだ限定的な規模感です。

Facebook側のペネトレーション戦略として注目されるのは、携帯電話へのプリインストール化でしょう。実際に高い浸透率を誇る東南アジアでは、Facebookは携帯電話事業者との連携戦略がとられています。実名性という壁も、通常実名で用いられている「電話帳機能」の一環として見せていけば、抵抗は少ないかも知れません。とはいえ、日本のインターネットユーザーの6〜7割がFacebookを利用する、といった状態はあと1〜3年は考えにくいと思います(米国では既にインターネットユーザーの約7割が利用)。一般的にSNSのスイッチングコストは高く、ミクシィ、グリー、モバゲーの利用者がFacebookに移行するには相応のメリットが必要です。

日本のソーシャルメディアの状況を形容する際にはしばしば〝fragmented(分断された)〞という単語が用いられます。ほぼ「ソーシャルメディア=Facebook」である諸外国と比べると、様々なプレーヤーがソーシャルグラフを抱える日本の現況は確かに「分断」されています。

日本のSNSの今後を占う上では、Facebookの動向は重要です。開発スピードの速さ、実名性による「リアル」なコミュニケーション、ソーシャルグラフの形成スピード、企業のビジネス展開の容易さ(無料で高機能のファンページを開設可能)など、Facebookにしかない強みも多数あります。

日本においても、検索エンジン、レビューサイト、ニュースサイトなど、様々なサービスがソーシャル性を帯びてくることは間違いありません。今後のSNSの競争は、外部サービスに対して価値のあるソーシャルグラフを提供できるかどうかにかかってくるでしょう。

「ソーシャルグラフ・プラットフォーム」となり、ソーシャルウェブ時代の覇権を握るのは、完全実名性を敷くFacebookか、日本に強い地盤を持つミクシィか、はたまた2000万の「バーチャルグラフ」を保有するグリー、モバゲーか。今後のSNSの動向に注目が高まります。

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