ジャスミン革命から企業戦略まで:SNS連携が切り開く次世代の情報拡散とブランド構築
Facebook再上陸以降のソーシャルメディアとマーケティング的用法〜ソーシャルメディアミックスの可能性
オバマから始まった政治の世界のソーシャル化
逆に言えば、Facebook が実名主義を愚直にまで貫き通しているからこそ、政治的なプラットフォームとしての価値が成立しているとも言える。誰だか分からない架空の人格ではなく、間違いなく社会的な立場を証明できる実在のユーザーとの接点を持つことができるからだ。例えばそれが有権者であったなら?
米国史上初の黒人大統領となったバラク・オバマ大統領は、米国大統領選挙戦の歴史上初めて、本格的にソーシャルメディアを活用し、成果を出した政治家だ。オバマ陣営では主にインターネットを活用するニューメディアチームに80人以上のスタッフを抱えていたらしい。それらスタッフの陣頭指揮を執っていたのはFacebook 共同創業者の一人、クリス・ヒューズだった。彼らはFacebook を中心に、有権者との相互的なコミュニケーションをキャンペーンの軸としてとらえた。
僕はチュニジアに始まったジャスミン革命の発端は、このオバマ陣営の選挙戦の成功にある、と考えている。ジャスミン革命において、ソーシャルメディアは主に二つの機能をプラットフォームとして提供した、と述べた。一つはクチコミを発生させ、拡散させ、醸成していくという役目である。もう一つの機能は、デモをはじめとするイベントの告知と集客だ。オバマ陣営においては、さらに直接的な資金調達(この場合は献金)という機能が効率的に採用されており、後述するが非常に大きな成果を生み出した。
米国大統領選挙は、世界最大の政治ショーであると同時に、最高峰のマーケティング戦争だ。そこで有効とされた戦略はあらゆる業界に採用される。例えば、ケネディ時代にはテレビが勝敗を決し、ジョージ・ブッシュ時代にはメールやWebサイトが新しいマーケティングツールとして多用された。オバマ陣営が、黒人候補という不利や、ヒラリー・クリントンらに比べると低い知名度を逆手に取って、短期間に自らをナショナルブランド化できたのは、ソーシャルメディアによるところが大きい。彼の選挙戦は世界初の本格的かつ最高の成果を収めたソーシャルメディアマーケティングであり、そのやり方やノウハウが、ジャスミン革命においても共通的な特徴としてみられる。
オバマ陣営は選挙戦が始まった当初から独自のSNS(my.barackobama.com = MyBO)を立ち上げて、クレジットカードでのオンライン献金を可能にしたが、同時にFacebook をはじめとしてMySpace やTwitter、ブログといったさまざまなソーシャルメディアを活用したし、YouTube やUstream などの動画共有サイトも多用した。彼らはMyBO を中心に、ソーシャルメディアを使ってオフラインの20万回以上のイベントを主催した。オバマという名前はイスラムを想起させやすいという政治的弱点があり、さらに黒人という出自が、彼の大統領候補者としての圧倒的不利を生んでいたが、こうした草の根運動による緻密で連続的なブランディングによってネガティブな印象を消すことに成功したのは素晴らしい。
さらに2年間で300万人の草の根的な支持者たちから実に7億5000万ドルもの献金を集めることに成功している。そのうち実に5億ドルがオンラインでめられた献金だ。同時期のライバルであるマケイン候補がネット経由で勝ち得た献金額は10分の1の5000万ドルであることを考えれば、その凄さが理解できるはずだ。ともあれ、オバマ陣営の選挙戦のやり方は、さまざまな分野での高度なソーシャルメディアの活用の類型を生みつつある。国際政治にあってはジャスミン革命のような形になり、そしていま企業活動、特にマーケティングにおける優れた類型を直に生み出せるところまで、その影響は広がっている。
Facebook と他のソーシャルメディアとの相違と関連性
Twitter は社会的な事件や大事故などの発生とともにクチコミ元として会員数を増やしてきたことでもよく知られている。 米国のハドソン川に飛行機が不時着した際に、災害を世界に伝える写真の最初の1枚が公開されたのは、iPhone によって撮影されアップロードされたTwitter 経由のものだった。
実際、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震にあっても、多くの情報がTwitter 経由で伝達された。マグニチュード9・0という、世界でも最大級(過去計測された地震では世界第4位の規模とされる)の地震は、日本国内では少なくとも過去400年間に起きた震災の中でもっとも大きいという。都内でも、携帯電話はほとんどつながらなくなり、電力不足によって交通手段にも大きな麻痺が起きた。高層マンションにあっては電気が止まれば水道も使えない場合が多く、直接的な被害が少ない東京であってさえ、とにかく数週間から数カ月にわたって、さまざまな不都合や不自由に直面することになる。天災とはまことに恐ろしい。
Twitter はよく落ちることでも有名(?)だが、チュニジアやエジプトの革命をはじめ、最近では世界の注目を集める大きな事変が数多く発生しており、それらの状況をリアルタイムで伝える命綱としての自覚が彼らにはあるのだろう。今回の震災でも落ちることなく我々の情報源としての役割を果たし抜いた。また、動画のライブ中継サイトであるUstream も、東北地方太平洋沖地震の様子を具体的に伝えるツールとして、日本国内でもTwitter とともに成長を続けている。
世界的に見ると、Ustream はチュニジアやエジプトの民主化運動が全国に広まっていく模様を伝達する最良の手段として巧みに活用されており、2011年に入っても順調な成長を続けていた。僕は自著でYouTube が動画版ブログならば、Ustream は動画版Twitter であると表現している。データのアーカイブ(蓄積)ではなく、ストリーム(流れ)のツールであるという点が、Twitter とUstream に共通する大きな特徴だ。Twitter が事故や災害、政変などの世界的なニュースが発生するたびにデジタル瓦版として成長してきたように、そして、そのもっとも有効なガジェットとしてのスマートフォンの普及が成長を後押ししてきたように、Ustream も同じ道をたどっている。
Twitter とUstream の成長は、実際にはあらゆるソーシャルメディアの役割を明確化し、全体を刺激していることが興味深い。ブログは人々の想いや主義主張をコンパクトにまとめて記録に残す最良のメディアだ。また、数多くの動画コンテンツは最終的にYouTube にアーカイブされ、Google の手によってたやすく検索されるように整理されていく。そして、実名で多くの人をつなぐFacebook がそれらのコンテンツの共有と再利用を促している。事件発生時に威力を発揮するのはTwitter とUstream だが、伝達された情報のさらなるネットワーク化や検証へとつないでいくのは、それ以外のソーシャルメディアたちであり、特にFacebook がその中心である。
ソーシャルメディアは単独で用いられるのではなく、おおまかな役割の相違があることによって、全体が大きなネットワークとして機能するようになる。僕たちはこの状態をソーシャルストリームと呼んでいる。データが複雑な海流のごとく、複数のソーシャルメディア間を流れていく様子を表現した言葉だ。Twitter やUstream だけでは、データは津波のように我々を飲み込んだあとに消えていくが、Facebook やYouTube、ブログなどがデータの有効利用をうまく担う。
今後、ソーシャルメディアの有効活用をマーケティング視点で語るうえで、このソーシャルメディアミックスの配分をどう考えるかが要諦になるだろうと思われる。どのようにするかで、データの伝搬のさせ方が決まってくるからだ。
ソーシャルメディアをマーケティングに活用する
僕たちオガワカズヒロは『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ)というマーケティング解説書を書いているが、2010年2月に出版したこの本の中では、実はFacebookについてはほとんど触れていない。当時は、ソーシャルメディアマーケティングの主役はTwitter であり、Twitter とブログ、YouTube、Ustream などをいかに組み合わせて、購読者を増やし、コミュニケーションをとっていくかが焦点だったからだ。
しかし、米国においては2010年当時から一貫してソーシャルメディアマーケティングとはイコール Facebook マーケティングだ。先述のように、2008年の大統領選挙でオバマ選挙対策チームに主に活用されたのはFacebook であり、MySpace であり、リンクトイン(http://www.linkedin.com。ビジネスパーソン用のSNS)だった。Twitter は、選挙対策チームのスタッフの一人であり『「オバマ」のつくり方』(阪急コミュニケーションズ)の著者であるラハフ・ハーフーシュに言わせれば、もっとも使いづらかったツールであるらしい。
しかし、日本においては、2010年当時は、mixi もGREE もモバゲーもオープン性に欠けるうえ、あくまで消費者向けサービスのスタンスであったため、マーケティング利用の主役ではなく、中小企業やベンチャーには主にTwitter を中心としつつ、ブログや、Ustream などの動画共有サイトを併用することを提案せざるを得なかった。広告予算が潤沢にある大企業であれば、マスメディアをうまく活用して、その効果を最大限に活かすためにTwitter を使うことを勧めたし、余裕があれば、やはりブログやUstream など、複数のソーシャルメディアとの連携、つまりソーシャルメディアミックス(複数のソーシャルメディアを組み合わせ、使い分けてアテンション獲得力の弱さを補うこと。僕の造語)を行うことを進言してきた。
それが、2011年に入り、Facebook が本格的に日本国内でも普及の兆しを見せてきたことによって、もろもろ事情が変わり始めた。さまざまな企業もソーシャルメディアマーケティングのツールの真打ちとしてFacebook に大きな期待を寄せている。米国では先進的に既に多く見られる、さまざまなソーシャルメディアミックスを日本国内でも実行できる可能性が強くなってきたと言える。
ちなみに、ジャスミン革命の事例を見るまでもなく、Facebook は、Twitter はもちろん、ブログや動画サイト、画像サイトなどの情報をうまく吸収し、統合する力がある。新聞やテレビなどのマスメディアを使う予算を持たない企業や個人であっても、いまFacebook に取り組むことで新奇性を持つことができるから、さまざまな人々の注目(アテンション)を集めることが可能になってきた。
逆に言えば、Facebook だけ使っていてもそれほどの意味はない、ということに他ならない。
Facebook をマーケティングに使うということは、イコール Facebook ページといわれる、会員以外も閲覧できる公開型ホームページを構築することから始まるが、そのFacebook ページに人を集める(ファンを集める)ためにも、他のメディアとの連携が絶対に必要だ。ブログやTwitter などとの連携がなければ、その効果を十分に発揮させることができないのである。