任天堂はなぜ勝者となりえたのか〜ハードとソフトのシナジーなきプラットフォームはない

ARCHIVE

サイトウ・アキヒロ

もはやハードウェアのクオリティのみでプラットフォーム戦略を勝ち抜くことは難しい。ハードに頼りつづけた日本企業の苦戦の訳がここにある。プラットフォーム戦略における任天堂の成功例は、ガラパゴス化の是非すら問い直しを求める。

躍進の理由を探る

私がゲーム製作に関わり始めたころのゲーム業界は、まだ産業として始まったばかりで、社会的な認知度もなく業界としても試行錯誤な状況でした。そんな中、当時ゲームソフトの開発をしていた岩田聡氏(現任天堂社長)との出会いをきっかけとして、ファミコン初期のころから任天堂のゲーム開発に携わり始め、以後岩田氏プロデュースの元、ディレクターという立場でソフト開発を続けてきました。結果としてその間に任天堂という会社が急成長し、日本発の産業として大躍進していくさまを身近に体感していくこととなりました。

「任天堂躍進の理由はどこにあるのか」。その問いの答えを出していくことは、日本におけるIT製品や家電業界の行き詰まりの根本的な理由を解明すると共に、それを打開する糸口を提示することでもあるのです。

任天堂という企業の閉鎖性

どうも任天堂には「閉鎖的な社風」というイメージがありますが、それが意図されたものであることに気がついている方がどれだけいるでしょうか。グローバリゼーションの名のもとに広く世界に進出して、ワールドワイドにマーケティングリサーチを行う製品開発が当たり前とされている日本企業とは、まったく相容れないモノづくりを自覚して行っていることを認識している方は少ないでしょう。

任天堂を「ゲームメーカー」と思っている方が大半だと思いますが、その本質は「玩具メーカー」です。任天堂が玩具に一番必要な要素と考えているのは『驚き』です。ファーストインプレッションとして「いったいなんだろう」と興味を引き、最終的には「これは面白い」と全身の感覚で感じてもらわなければなりません。任天堂のアプローチを「ブルー・オーシャン戦略」ととらえてもいいかと思いますが、『驚き』の創造という玩具メーカーのアプローチが、誰も思いつかないような独創的な製品を生み出し、結果として「ブルー・オーシャン市場」を創造していると考えた方がいいのです。

 

そんな任天堂にとって、マーケティングと称して「あなたは何に驚きますか?」と聞いて回ることほど意味のないことはありません。「こんな商品なら驚きます」と言われた時点で誰もが驚く魅力的な商品にはならないからです。

1 2 3 4 5 6 7