アクセンチュア マネジング・ディレクター 巽直樹氏に聞く
第3回 電力供給の限界が突きつけるAIの進化

FEATUREおすすめ
聞き手 桐原永叔
IT批評編集長

AIの急速な進化によって、電力消費量の増加は避けられない課題となっている。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が公表した報告書をもとに、AI進化と電力供給のボトルネック問題について解説してもらった。シンギュラリティの到来は、AIやGPUの指数関数的な進化だけでは測れない側面がある。

巽 直樹(たつみ なおき)氏

巽 直樹(たつみ なおき)

アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部マネジング・ディレクター

中央大学法学部卒、東北大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経営学)。東洋(現三菱UFG)信託銀行、東北電力、インソース執行役員、新日本(現EY新日本)監査法人エグゼクティブディレクター、KPMGコンサルティング プリンシパルなどを経て、現職。この間、学習院大学経済学部特別客員教授などを歴任。著書は『まるわかり電力デジタル革命 EvolutionPro』(日本電気協会新聞部)、『カーボンニュートラル もうひとつの“新しい日常”への挑戦』(日本経済新聞出版)、『ローカルグリーントランスフォーメーション』(エネルギーフォーラム)など多数。国際公共経済学会理事、立命館大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)客員教授なども務める。

目次

生成AI時代のエネルギー問題とは

IT批評編集長・桐原永叔(以下、──)AIの進化には電力供給問題は避けて通れません。どのような見通しが立っているのでしょうか。

巽 直樹氏(以下、巽) 2025年7月9日に電力広域的運営推進機関(OCCTO)から、「将来の電力需給シナリオに関する検討会」の報告書が公表されています。2040年、2050年時点での需給想定をさまざまなシナリオを設定して検討されたもので、関係者の努力の跡が伺えます。その中で、2050年に最大で8,900万kWの需給ギャップが生じる可能性が指摘されました。これは、予想される供給力(相対的に予見性は高い)と需要(AI普及による振れ幅が極めて大きい)との差です。日本の最大電力需要が2024年度で1億6,000万kW弱なので、この需給ギャップは最大需要の半分を超える規模になります。原因はもちろんAIの普及を契機としたデータセンター(DC)需要の爆発的増加が織り込まれたからです。一部の専門紙は「衝撃」と伝えていますが、業界関係者の間では数年前から予想されていたことです。しかし、2024年に策定された第7次エネルギー基本計画(7次エネ基)においては、このような巨大な需給ギャップが生じることは想定されてはいませんでしたから、一般には「衝撃」と受け止められても違和感がないのでしょう。

1.5倍になる電力需要に対して、供給は追いつくものでしょうか。

私も2023年頃からビジネス誌などで、DCと半導体工場の電力爆食いの警鐘を鳴らしていました。8,900万kWの需給ギャップを埋めるには、原子力発電が新たに100基以上必要(稼働率を考慮)になりますが、今からつくっても2050年にはとても間に合いませんし、そもそも現実的ではありません。2024年12月、国際エネルギー機関(IEA)で“Energy for AI, and AI for Energy”というカンファレンスが開催され、GAFAMなども参加して議論がなされました。AIによる電力需要増大は国際的にも重要なテーマとして扱われ始めています。

それほど電力を必要としないと言われるDeepSeekのようなAIモデルのイノベーションが解決策として期待されるんでしょうか。

 需要予想には、従来からの要因──経済成長などの増加要因、省エネ技術や人口動態などの減少要因に加え、AIによるDC需要という新しい不確定要素をどう織り込むかが課題です。実際、日本ではここ半年ほどでAI利用は急増しているはずですが、それに伴う電力需要が顕著に伸びているわけではありません。DeepSeekのようなイノベーションやGPU半導体の性能向上など、当初想定したほど需要が伸びないことも考えられます。さらに将来、AIモデルが現在の密結合型ではなく、より人間の脳に近い疎結合型に移行した場合、必要な計算量自体が減り、需要はむしろ減少するかもしれません。このように需要側の不確定要因が多すぎる反面、リードタイムが長いエネルギー供給設備の増設には数年で導入できるものから何十年もかかるものもあります。したがって、現状の需要予想をそのまま信じて巨額の投資判断を行うことは非常にリスクが高いのです。ただでさえ、電力自由化の進展で大手電力会社の経営体力は従前よりもかなり低下しており、巨額の先行投資を迫ることはかなり過酷な要請です。

2030年頃には世界で優勝劣敗が見える

四半世紀も先の予想なので数字の妥当性はおくとして、電力の供給がおぼつかなければAIの進化にブレーキがかかることも考えられます。ムーアの法則から言えば、結局GPUの計算力がAIの性能の天井になってきますから。

 先にインタビューした岡本さんによれば、シンギュラリティに関するカーツワイルの計算はムーアの法則に則っているから2045年とされています。ただし、この計算にはクラウドの進化を予想していなかったことに加え、エネルギー供給をまったく無視していました。だから2045年をそのまま信じるべきではありません。一方で、AI技術の進化速度だけを見ていると、もっと早く到来しそうな気配も感じます。

生成AIとエネルギーという観点から、これからの20年をどう見たらいいんでしょうか。

 2045年のシンギュラリティは、AI進化のペースを考えると前倒しされる可能性があります。しかし、同時にエネルギー供給がボトルネックになりかねないという見立てからすると、2030年頃には世界で優勝劣敗が見えてきているのではないかと考えています。あと5年しかないという見方もありますが、AIの今の進化速度を前提とすると5年後が想像し難い状況にあります。結局のところ、これは兵站(サプライチェーンとエネルギー供給力)の戦いになるでしょう。