メガ自治体・世田谷区が取り組む「脱・紙管理」
第2回 世田谷区が挑むデジタル・デバイド解消と生成AI活用の現場

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IT批評編集部

世田谷区は、DX推進体制の提言も盛り込んだ「新たな行政経営への移行実現プラン」を策定したほか、IT業界出身である松村克彦副区長が最高デジタル責任者(CDO)に就任したことで、全庁的にデジタル化を推進している。大規模自治体ならではの悩みや、職員を巻き込んでいく取り組みについて聞いた。

世田谷区人事課のDX推進担当者(取材当時)鈴木氏、中村氏、白石氏

鈴木さん(左)、中村さん(中)、白石さん(右)

世田谷区人事課のDX推進担当者(取材当時)

目次

規模が大きいが故の悩み

IT批評編集部(以下―)今回の勤怠管理のDXについて、他の自治体でも似たような悩みはあるのでしょうか。

中村氏 東京23区に限った話かもしれませんが、他区の人事担当者と話をすると、いまだに紙でやっていますみたいなところも散見されるので、同じ悩みを共有しているはずです。やはり紙での管理には限界があるので、システム化しなければいけないという認識は、どこでもあるという風に感じています。

世田谷区は、業務のデジタル化としてはどのレベルにあるのでしょうか。他に自分たちよりも先進的だなと感じる自治体はありますか。

白石氏 渋谷区さんがすぐに思い浮かびます。勤怠ももちろん、職員コミュニケーションにもデジタルツールを導入していて、かなり進んでいる印象は受けます。

鈴木氏 やはり、ビットバレーのお膝元だからデジタルリテラシーが高いのかもしれませんね。どの自治体でも、自分たちが慣れ親しんだやり方から脱することは相当難しいのですが、そこを打破できたのが渋谷区さんだったのかなと思います。

規模が大きいが故にDXが進みにくいという側面はありますか。

中村氏 規模が大きい自治体は、何かを変えようとすると、すごいエネルギーが必要になります。世田谷区は人口規模も職員規模も大きいので、新しいことを始めるとなると、いろんなハードルが出てきます。今回、AIZE という顔認証打刻のシステムを契約するまでにいろんな自治体にヒアリングしたのですが、政令指定都市クラスの大きな自治体は似たような課題を持っていました。例えば、小さな自治体であれば、職員全員にPCやタブレットを配ることができますが、大きな自治体ではそれができません。

小規模のほうが動きやすのは、意思決定の早さもあるかもしれませんね。

鈴木氏 意思決定の早さもありますが、初期投資がそれほどかからないということが大きいと思います。何か起きたときにリカバリーがしやすいというのもポイントです。大きな組織になると、軌道修正するときに末端まで届くまでにタイムラグが生じて混乱しがちです。

規模が大きいだけに、変革のスピードが遅いということはありそうですが、逆に規模が大きいだけに、うまくやれると効果も大きいはずですよね。

白石氏 そうですね。新入職員が入庁する時に世田谷区を選んだ理由として、「ソーシャルインパクトが大きいので」と答えた方がいました。世田谷区がやれば、他の自治体にも波及するということはあるかもしれません。

DXを進めることによって行政への参画を促す

非常勤職員の方々の業務にはどのようなものがあるのですか。

中村氏 一般事務の補助が最もボリュームがあります。あとは保育、学童、図書館、栄養士、保健師のような専門的な部分も幅広くあります。

年齢もさまざまなイメージでしょうか。

中村氏 傾向としては、年齢は結構高めと言いますか、やはり一定程度ライフイベントが落ち着いてきてパートタイムで働く方が多いですね。とはいえ、学童などはまさにそうですが、大学生の方が社会経験を積むために来られていたりするので、バックグラウンドはさまざまなのだと思います。

多様な属性の方々が、多様な働き方で行政にかかわることができるのが望ましいと思うのですが、DXを進めることによって、参加へのハードルが低くなりませんか。

鈴木氏 そうですね。勤怠管理のシステムを変えただけでは、なかなかそこまでいかないかもしれませんが、職員の募集方法なんかは変わってきています。募集要領の紙を出張所などに配って、それに対して紙に記入して郵送で申し込むというアナログな募集方式から、すべてが電子申請で完結するといった取り組みも進めています。そういった意味では、DXを進めることによって行政に参画しやすくなるかもしれません。

民間企業では、一部署で効果が出たことはよその部署にも波及していくことが見られますが、自治体でも同じですか。

白石氏 そうですね、好事例は庁内で共有される仕組みがありますので、サービスを活用してよかったよという情報が共有されると、他の部署にも波及していくことはあります。そういう意味で言うと、今回の顔認証システムは人事課が出退勤に利用していますが、効果が誰の目にも明らかになり、顔認証が便利だということになれば、出退勤以外での顔認証の活用も何か考えられるかもしれません。

企業であれば、最終的には営利をゴールにすればいいのですが、自治体の場合、最優先される価値はなんでしょうか。

鈴木氏 区民サービスに割くリソースを確保することが第一に優先されます。事務手間の効率化も、区民サービスに還元できないとあまり意味はありません。

なるほど。仮にDXが進んでも職員や住民に不満が溜まるようであれば、見直さざるを得ない場合もあるということですね。その点において、高齢者などに見られるデジタルデバイドはDX推進の課題になりそうですね。

白石氏 今回打刻システムに顔認証を採用したのは、打刻や登録に大きな負担がないことが大きな理由です。本当にシンプルな操作でコマンドが少ないので、システム操作に不慣れな年齢層の高い職員の方でも扱いやすいと思います。

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