学習院大学法学部教授 小塚荘一郎氏に聞く
(1)AI時代の法と規範

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

AIやビッグデータが私たちの社会生活を大きく変えてしまいうる時代において、その規制についても議論と試行錯誤が続いている。人間と社会に与えられるのは脅威なのか、それとも福音なのか──テクノロジーに向き合うために問われているのは私たちの人間観や国家観でもある。今回は、学習院大学法学部教授の小塚荘一郎氏に、AI法の成立から展望までを聞いた。

小塚荘一郎

小塚 荘一郎(こづか そういちろう)

学習院大学法学部教授。博士(法学)。1992年東京大学法学部卒業。千葉大学法経学部助教授、上智大学法科大学院教授などを経て現職。研究テーマは商法、会社法、宇宙法など。総務省AIネットワーク社会推進会議構成員、経済産業省消費経済審議会会長。『フランチャイズ契約論』(有斐閣)、『支払決済法』(共著、商事法務)、『宇宙ビジネスのための宇宙法入門』(共著、有斐閣)、『AIと社会と法: パラダイムシフトは起きるか?』(共著、有斐閣)、『AIの時代と法』(岩波新書)など著書多数

目次

AI技術、法曹界へのインパクト

都築正明(以下、――) 先生はもともと新領域にまつわる法学をご専門とされていたわけではないのですよね。

小塚荘一郎氏(以下、小塚) はい。大学でも会社法(コーポレートガバナンス)や商法の授業を担当しています。

AIと法について研究されるきっかけはどんなことだったのでしょう。

小塚 有斐閣の雑誌「ジュリスト」で「AIと社会と法」という連続座談会がありました。中心になったのが憲法を専門にされている宍戸先生で、公法によるAIの規制について研究されていました。その先生がメンバーとして声をかけたのが法哲学の大屋先生と情報工学の佐藤一郎先生、そして民事の取引や責任を専門としている私の3名でした。そこから、座談会などを通じて勉強を深めていきました。私がずっとテクノロジーと法に関わることを研究していたので、お声がけいただいたのだと思います。

テクノロジーについては、どういった観点から関心を抱かれていたのでしょう。

小塚 私は、法律の枠組みで割り切れない問題に関心を抱いていました。最初の研究テーマはフランチャイズ契約でした。コンビニエンスストアの契約形態も法律的にはよくわからないものなのです。スーパーマーケットのチェーンだと全体で1つの会社です。一方、コンビニが加盟店にしていったのは個々の独立した青果店や酒店です。この場合、コンビニチェーンとしての繋がりはありつつ、個々の店舗は独立しているという特徴を持っています。こうした割り切れないものに法がどう向き合うのか。そうしたことに興味がありました。テクノロジーも割り切れない問題をたくさん孕んでいますし、AIについても、その関心の延長から研究しています。

AIによる「リーガルテック」といわれるようなサービスも進んでいます。

小塚 法律分野でも、学問研究以上に法律実務には大きなインパクトがあると思います。弁護士の仕事の多くはリサーチです。AIがもっとも得意としているのもリサーチですから、そこがテクノロジーで代替されていきます。おそらくこの先20〜30年で、法律事務所の姿は大きく変わるだろうと思います。

どのような変化が起こるのでしょう。

小塚  ボストンコンサルティンググループは、法律事務所の人員がピラミッド型からロケット型になるのではないかという予想を立てています。現在、大規模な事務所ではリーダーになるパートナー弁護士の下にたくさんの若手アソシエイト弁護士がついてリサーチをしていますが、ここが機械化されていきます。今までの法律事務所は、トップにパートナーとなる先生、その下に一定数の中堅がいて、大量の若手アソシエイトを動員する図式でした。裾野の広い部分にいる人員がテクノロジーで代替されると、将来の法律事務所はパートナーになるような人たちだけのロケット型の組織になるだろうといわれています。

法律家の業務のなかで判例や裁判例を調べるようなことが機械化されていくのでしょうか。

小塚 そうです。今までであれば、どう探せば役に立つ判例を効率的に見つけられるかというのが一つのノウハウでした。勘のいい人もいれば、経験によって勘を磨いていく人もいましたが、AIを用いれば大量のデータから判例をとってきてくれるわけです。ですから、リサーチのノウハウを自分の持ち味にされていた弁護士の職は機械に代替されていくと考えられます。ただ、時代の変化と判例の位置づけがどう変わるのか、もしくは変わらないのかについては法律に基づいて考えなければなりません。ChatGPTに聞けば何らかの答えは返ってきますが、それはどこかからつまんできた答えにすぎません。その部分については法律家のコアな業務として残っていくだろうと思います。

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