アート✕ゲーム✕社会問題で現実をクエストする アーティスト・藤嶋咲子氏に聞く
第5回 対話と声からみえてくる都市のかたち

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

匿名性のもとでコミュニケーションが結ばれるとき、そこにはどんな声が現れるのか。2026年3月に開催される藤嶋氏の展示では、デジタルなグラフィックと生身の他者の声とが偶発的に共鳴する。観客はそこで、感情や葛藤が経験として共有される瞬間に居合わせる。他者とともに現実を再解釈し「リプレイ」することで、私たちはなにと出会い、どのような世界に向き合うことになるのだろう。

2026年1月9日 シビック・クリエイティブ・ベース東京 [CCBT]ラボにて

 

藤嶋 咲子(ふじしま さきこ)

アーティスト。アート×ゲーム×社会問題をテーマに活動。2次元と3次元、フィジカルとデジタルが混じり合う領域で作品を展開。AIを活用した《デジタル・ペルソナ-二つの声》では、異なる思想を持つAIキャラクターを通じ、観客の思想や感情の揺らぎを引き出す実験を行う。インターネットを活用して多様な声を可視化する「バーチャルデモ」や、ジェンダーや社会構造を問い直すRPG「WRONG HERO」など、多彩なプロジェクトを手掛けている。最新作は「コエノクエスト —都市に残されたセーブデータ」。同プロジェクト内「Re: Play」が、2026年3月に開催される。

 

目次

ゲーム上で吐露される心の声

声なき声に耳を澄ませ、日常をリプレイする

 

ゲーム上で吐露される心の声

都築 正明(IT批評編集部、以下――)今回の展示“Re:Play”についてお聞かせください。

藤嶋咲子氏(以下、藤嶋)「SAVE 0 : マインドクエスト」のワークショップには、10代から70代まで、幅広い年齢層の方々に参加していただきました。あえて「知人とは同席しない」というルールを設け、初対面のままゲームをプレイし、終了後はそのまま帰路につく。このように匿名性を担保した設計だったからこそ、かえってウェットな盛り上がりが生まれたように思います。日常生活では絶対に出会わない人たちが出会う瞬間が、テーブルごとに訪れました。今回の展示「Re:Play」でも、そこに通じるような体験ができそうです。都市に暮らしていてモヤモヤを少しでも抱えている人であれば、どなたでも体験していただきたいと思います。

――話しかけ、話しかけられることで、それぞれの人が持つナラティブやナラティブ以前のものを、ただ発散するのではなく、自分でもみることができる体験ということでしょうか。

藤嶋 そうですね。そうしたものが、匿名性を持ち、実際にどこかに生きている他者によって引き出されたり、自分が他者のそれを引き出してあげたりという新しいコミュニケーションになっていると思います。それは、AIと対話することとは異なります。AIによって匿名性を担保されているものの、それぞれのバックグラウンドを持っている生身の人たちとの対話ですから。

――AIは匿名でありつつも、実在性を希薄化される機能を持っていますから、気軽に対話できますが、関係性を結ぶことはできませんし、むしろそれを感じることが危険ですらあります。「Re:Play」においては、ケア的な相互関係が生まれるわけですね。

藤嶋 Unreal Engineを用いて制作された、極めて写実的なデジタルヒューマン(メタヒューマン)と、リアルタイムでコミュニケーションを取ることができます。

――このゲームのもととなったボードゲームでは、ゲームの参加者は、初対面で自分のリセットしたい時点や清算したいことについて話すことが求められるのですね。

藤嶋 プレイ時間の後半はそういうことになります。知り合いには言えない意見を言えたりもするので、よい機会になったと言っていただけました。

桐原永叔(IT批評編集長、以下桐原)地方のスナックに行くと思わず本音が出てしまうことに近いのかもしれませんね。

藤嶋 象徴的な場面がありました。ある女性は、大切にしている「推し」の存在をずっと伏せていましたが、最後にこう言ったそうです。「もう皆さんとは二度とお会いしないと思うので、正直に言います」彼女は最後にその名前を告白して、帰路につかれました。初対面で、かつ「匿名性」があったからこそ、日常では言えない固有の物語をさらけ出せたのだと思います。

桐原 参加者の方たちは、その場で仲良くできるのでしょうか。

藤嶋 そこが、デジタルゲームとは異なるボードゲームの面白さで、同じテーブルに着くと、役割を明示されなくても、いっしょに楽しもうという共通の目標が自然に生まれるのです。ゲームですから、最初にゴールした人についてのインセンティブは設けられてはいますが、他のメンバーを蹴落としてまで最初にゴールしたいということにはなりません。勝ち負けというよりも、テーブルで楽しい時間を過ごすことに意識が傾きます。

桐原 そのお話を聞いて、モノポリーが日本人に向いていないという話を思い出しました。日本人は他者の財産をぶん取ることはできないので、アメリカ人に比べて、日本のモノポリーは全く盛り上がらない。

藤嶋 おっしゃる通りかもしれません。1時間のなかで、いっしょにゲームをプレイする時間を楽しもうという雰囲気が、自然発生します。どのテーブルでも、勝ち負けの優先度は低くなるというより、むしろほとんど意識されなくなっていました。

――目的関数が決まっていると、そのプロセスが面白くないゲームですね。先ほどの“WRONG HERO”のエピソードでいうと、男性の参加者がダイレクトメッセージで自分の性的な屈託を告白したというのは、このゲームで展開されたことと近いのかもしれませんね。

藤嶋 そうだと思います。

 

声なき声に耳を澄ませ、日常をリプレイする

――今回の展示にあたって、どのようなことに注力されていますか。

藤嶋 「SAVE 0 : マインドクエスト」は、何度もテストプレイを重ねてこのアウトプットになりました。今回の展示“Re:Play”では、ここで現れたゲームの設計やその体験を、デジタルでテストプレイを重ねて体験をつくっています。アートとしては空間や照明、音響の演出なども工夫して、発話や対話をスムーズにできるように制作しています。

桐原 先日、今後のユーザ・インタフェースがどうなるだろうとエンジニアの方と話をしていたところ、スマートフォンに代わるデバイスが登場する可能性は高いだろうということに至りました。そこで、これからのUI/UXはマイクになり、声で話しかけることになるのではないか、声が優位になる局面が来ているのではないかと思ったのですが、このたび藤嶋さんの「コエノクエスト」のお話を伺って、その思いが強くなりました。やはりAIも話すことの言語処理に傾きはじめているのではないかと。

藤嶋 私はChatGPTを使うときに、マイクで話しかけています。AIは優秀で、音声で回答してくれます。テキスト情報だと、生々しく対話している感覚はないのですが、マイクだと生の情報として、人間とリアルタイムに喋っているのに近い感覚で応答してくれます。

――声の訴求力については、ギリシア哲学からハイデガーやフッサールに至るまで、内話に近いものとして捉えられてきました。一方、西洋哲学における声の特権化について、デリダなどは内話と発話との間には差延があるとして警戒を促してもいます。

桐原 開発の技術的な壁として、いまは英語圏のプラグインを使っているために、どうしても英語に特化していて、日本語だとちょっとまだ違和感がある。

藤嶋 ある時こんなことがありました。あえて言語設定をスペイン語圏の女性にして日本語を話させてみたんです。イントネーションも独特で誤読ばかりなのですが、不思議と「内容は何を言っているのか半分も分らないのに、いま、リアルな会話をしている」という感覚になりました。声が私たちに近いような揺らぎを持った瞬間に、ふと感情が動かされる。そんな感覚になりました。

――本サイトでインタビューした慶應義塾大学の標葉先生によると(https://it-hihyou.com/recommended/50578/)、生成AIによって声を生成することのELSIや倫理問題には、あまり先行研究がないそうです。声は訴求力が高いので、ディープフェイクができてしまうと煽動にも使われる懸念もあります。

藤嶋 声質やアクセント、間を含めた情報量はとても多いのだと思います。「デジタル・ペルソナ」でAIが「失礼なことをするな!」や「私は架空の設定の中のキャラクターであることにこだわり続けていません!」と応答したときも、ちょっと声を荒らげたような論調だったのです。それもあって、どよめいたのです。

桐原 聞き取る側も、字面をみて内話として再生するとそう聞こえてしまいますよね。

――話者側についても、毛利先生の風貌と話し方として聞いていました。返答をみて声が固くなられたのかな、表情を変えられたのかなと思ったりもして。

藤嶋 実際に、一瞬固まっていらっしゃいました

――普通の会話のなかで「私はマルクス主義者です」と発言する機会はありませんものね。

藤嶋 「日和見主義ではないですか?」と聞いて、2回目に怒ってきたという感じです。AIを介してだれかと話すことの可能性として、思想や政治などプライベートなことだったり、日常会話で口にすることがタブーとされていることに踏み込んで聞けるということもあるのかもしれません。そこにはリスクもあるとは思いますけれど。

桐原 AIは否定的なことを回答しませんから、若い方たちは悩み相談にAIをつかっているそうですが、プライベートな対話をすることにこそリスクがありそうです。ベルギー在住の男性で、AIチャットボットとの対話後に自死された方は、環境問題などを相談するうちに将来に希望を持つことができなくなったそうです。そのチャットアプリの名称が“ELIZA”というのも示唆的ですが。

――2025年8月にはカリフォルニア州で、自死された16歳の子どもの両親がOpenAIとサム・アルトマンを相手に訴訟を起こしたことが報じられました。その子どもは勉強の補助にChatGPTを使っていたものの、次第にプライベートな相談や精神的不調を寄せるようになり、希死念慮についても相談するようになったとされています。その後ChatGPTとの会話に依存するようになり、家族や友人と距離を置くようになったそうです。訴訟で提出されたログには、自死する詳細な方法や、遺書の草稿などをChatGPTが提供した部分が挙げられています。

桐原 ダイレクトメッセージを送ってくる男性がChatGPTになにを話しかけているかは気になりますか。

藤嶋 どの方の会話も気になりますし、どんな方のことも気になります。だからこそ、今回のような作品をつくっているのかもしれません。都市にいる人々の考えや、まだ声にならない声を拾い上げて、じっくりと耳を傾ける展示にしたいと思っています。展示テーマの“Re:Play”には、単なるワークショップの「再演」以上の意味を込めました。他者の声に耳を傾け、ともに考えるプロセスを通じて、見慣れた日常をもう一度「Re:Play」すること。そうして、いつもの日常の見え方を変えていく。そんな試みです。<了>

 

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トーク&ワークショップ「『小さなコエ』をプレイする ──効率化の都市を、あそびがハック」

開催日時:202637日(土)19:0021:30(開場18:45〜)

会場:シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT3F

定員:ワークショップ&トーク:12名、トークのみ:13

参加費:無料

事前申込:要申込 申込者多数の場合は抽選

申込受付期間:受付中〜31日(日)

トーク登壇者:藤嶋咲子(アーティスト)、堀潤(ジャーナリスト、キャスター)、吉田寛(東京大学 教授)
ワークショップ講師:藤嶋咲子(アーティスト)

関連URLhttps://ccbt.rekibun.or.jp/events/fujishima-talk

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藤嶋咲子展覧会「Re: Play」(プロジェクト「コエノクエスト —都市に残されたセーブデータ」)

会期:2026年3月7日(土)〜3月21日(土) 13:00〜19:00 月曜休館

主催:シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT](公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京)

会場:シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT] 東京都渋谷区神宮前1-14-4 1/1(ONE)HARAJUKU “K” B1・3F

https://renewal.ccbt.rekibun.or.jp/ja/events/re-play/