文化的接木と連想の果て
第1回 テクノロジーと社会をめぐる私的試論

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テキスト 桐原永叔
IT批評編集長

2020年11月から始めたこの「les essais」も今回で60回目になる。ほぼ毎月1本のペースでアップしてきたからまる5年になる。この5年間のうちに、テクノロジーと社会の関係はある意味で決定的に変化するメルクマールを通過したといってもいいかもしれない。

目次

人生において最長で最深の思考の記録

「あれやこれやをつれづれなるままに書き残すことにした。テーマらしいテーマはない。本から本への連想という方法だけがある。」と書き起こしたのは、#1「想像力がテクノロジーを奪う」の劈頭だ。
そんなふうな書き方、考え方、いや感じ方では早晩、限界が来るだろうし、そうなったらそうなったでタイトルを変え明確なテーマ設定をし文字数も目安を決めてやり直せばいいぐらいの気楽さで書きはじめたのだが、どういうわけか、のらりくらりと5年にわたって59回も記事を物してきた。
それでも続けるというのはなかなか苦難があるもので、ここ数年は月末になると何をどう書くべきかで胃が痛む思いで、「今回でひと区切りにしよう」と毎度、思うようになっていた。それでも書きはじめればなんやかんやと言葉は紡がれるし──わたしのイメージではモスラの口から吐き出される糸のように言葉が噴出する──、それに伴って、つまり言葉が言葉を連れてさらには思考と感覚を引きづってくるわけで、とめどもなく文章を綴ることになる回も多かった。
もちろん繰り返し推敲するわけだし、読み返すと拙さや不見識にハッとすることもあり大幅に書き直したりもしたのだけれど、それでも1本書き終えると非常に満足感があり「次は今回、書ききれなかったこの部分を深掘りしよう。よし、来月のネタはもうあるぞ、安心だ」なんて思うのだ。ちょっと前の「今回までにしよう」という思いはどこかにいってしまう。そのうえ、文字数も当初の記事の倍以上はふつうに書くようにもなってしまった。ここまで長くなると、読ませるため書き連ねているのか、文字の山を築くためにそうしているのかわからなくなる。それに随分、早い段階から自分の文体や思考の癖が嫌になっていて、ふっと俯瞰するとどういう目的の文章なのかとわからなくなることもあった。
日記というものをつける習慣を持たないまま、55歳まできてしまったわたしにとって、この「les essais」は人生において最長で最深の思考の記録となった。もちろん、読者に何らか資するために書いてきたのだが、いちばん得るものを得たのはわたし自身であったのは間違いない。

5年間を振り返る

そういうわけで──どういうわけとも言い難いが──、60回目を節目として、これまでの振り返りをしようと思う。
自分が何を考え、何を書いてきたのか棚卸ししようというわけだ。
この「les essais」を60回も続けたのは、ほかでもない、いつでもネタ不足、コンテンツが足りない「IT批評」というわたしが編集長を務めるWEBメディアがあったからだ。何としても「IT批評」を継続したいという思いからみずから文字を連ねてきたのだ。
おかげさまで、最近では著名人、有識者のインタビューも増えてきたし、記事の品質も高いものになってきたと自負している。それはもちろん、都築正明さん、松下安武さんという非常に博識で筆の立つ方たちの協力あってのことに他ならない。
そのうえ、2024年4月には『生成AI時代の教養 技術と未来への21の問い』(桐原永叔、IT批評編集部編著/風濤社)というWEB「IT批評」のインタビューをまとめた書籍も刊行することができた。付け加えておけば、この秋には第2弾の書籍の刊行まで予定している。5年前に、一人で「les essais」を書きはじめたときのことに思い巡らせれば、望外の現実である。おまけに、iU 情報経営イノベーション専門職大学の学長である中村伊知哉さんにSNS上で過分なお褒めの言葉をいただき、そのうえ、日経新聞の「リーダーの本棚」コーナーで、ライトパブリシティ社長の杉山恒太郎さんに、座右の書の1冊として『生成AI時代の教養』を紹介いただき下記のような評価までいただいたのは大きな励みになった。

生成AI時代の教養』はこれからの若者にぜひ手にしてほしい一冊。AI(人工知能)の進化は止まらずASI(人工超知能)の時代へ。だからこそ米国のヒッピー文化に感化された若者たちがなぜパーソナルコンピューターやインターネットを必要としたか。今こそ歴史から学んでほしい。「私たちはバックミラーを通して現代を見ている。私たちは未来に向かって後ろ向きに進んでゆく」。メディア論のマクルーハンの言葉を思い起こします。

2025年3月15日 日本経済新聞

インタビューを依頼させていただいく研究者や有識者の方たちにも、「『IT批評』知ってます」「読んでました」「『IT批評』さんなら取材お受けします」などという反応をいただくことも1度や2度ではなくなった。
そんなとき、この5年の歩みでそれなりに前に進んできたことを実感できた。素直に喜ばしい。

生成AI時代の教養 技術と未来への21の問い

IT批評編集部 (編集), 桐原永叔 (著)

風濤社

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