AIモデル普及推進協会代表理事・中山 佑樹氏に聞く
第2回 国境を越えるAIモデルの課題
AIによって生成されたコンテンツに対して、国や地域によって受け止め方や懸念点は大きく異なる。著作権に敏感な日本に対し、欧米では労働者の権利の奪取といった社会的影響に注目が集まっている。こうした背景を踏まえ、公正で持続可能なAI活用の土台づくりを進めるために、何がポイントとなるのか聞いた。
中山 佑樹(なかやま ゆうき)
一般社団法人AIモデル普及推進協会代表理事、AI model株式会社 取締役CTO
慶應義塾大学卒業後、新卒で広告制作会社に入社。TVCMのPM/Prとして勤務。その後、WEBサービスやアプリ・システム開発会社での勤務を経て、2020年よりAI modelの開発に携わり、現在、AI model株式会社のCTOとしてAI・システム開発統括を行う。
目次
AIモデルに対する日本と欧米の意識の差
IT批評編集部(以下、──)今回のガイドラインは、日本国内におけるAIモデルの開発と活用に特化しているのですね。
中山 そうです。基本的には日本国内に関してのそれぞれのサービス形態における注意点に関してガイドラインをつくっています。
AIモデルを活用しているのは、今は圧倒的にアパレル会社の比重が大きいわけですが、ユニクロにしてもしまむらにしても、海外市場を重視しています。そのあたりは視野に入ってくるのですか。
中山 実際に私たちのAIモデルを使った広告を海外で使っていただいているケースもあります。その場合には、その国の法的なルールやAIガイドラインをチェックしながら進めています。今のところ、うちのAIモデルのサービスがどこかの国のレギュレーションに抵触するということは起こっていません。
海外展開というと中国が多いのでしょうか。
中山 いえ、中国はほぼありません。アパレル会社さんに展開させていただいたグラフィックとか、ビューティー系の会社さんでつくらせていただいたグラフィックを、韓国やインドネシア、タイ、ベトナム、シンガポールなどで展開するケースが多いですね。
欧米はいかがですか。AIモデルの使用に対して厳しいような気がしますが。
中山 展開などは一部ありますが、日本との意識の違いは大きいと思います。日本の場合には著作権に対して敏感ですが、欧米だと労働者の権利という文脈でAIモデルに対して厳しい目が向けられます。
日本の場合、コンテンツ大国でありながら、いろんな会社にコピーされてきた歴史がありますからね。
中山 そこはすごく敏感で、クリエイターをすごく尊重していると思います。ただし、意外と仕事を奪うという文脈での話はそんなに出ない。もしかしたら、アニメキャラクターがテレビCMをやったり、Vtuberが出てきたり、人間ではないものが仕事をやるということに関して寛容な文化があるのかもしれません。アメリカだと、AIモデルによって労働者の仕事が奪われるという危機感が強いので、その辺は相当細かく留意しながら進める必要はあると思います。
それは、AIでつくられたモデルが俳優やモデルの仕事を奪っているという文脈ですね。
中山 そうですね。あるいはスタイリストやヘアメイクや撮影関係者の仕事を奪っているという見方もあります。
AIモデルはEUでは認められるのですか。
中山 ダメではありませんが、捉え方が難しいんですね。EUのガイドラインには、AIによる生成物に関しては「AIで生成した」という一文を入れるというのがルールとしてあります。個人的にはそうしたクレジットを入れることには賛成ですが、AIを使っているか否かをどう判断するのかが難しいと思っています。例えば、普通にモデルを撮影したけれども、レタッチの段階で床のゴミを消すのにFireflyを使ったらどうなんだろうとか、背景のビルを消すのはオッケーなのか、モデルの髪型を変えるのはどうなのかとか、使い方にグラデーションがあるので判断が難しいと思います。特にAdobeがフォトショップの機能に生成AIを入れたことで非常に難しくなったと感じています。
本当ですね。あったものをなくすのは重大な変更だという人もいそうですし。人物イメージ自体をAIが生み出すことに対する抵抗はありませんか。
中山 訴求方法次第というか、AIを使うことの文脈をしっかり踏まえれば大丈夫な気がします。しまむらさんの広告1では受け入れられているので、使い方や使う意味を検討したうえで、なおかつAIを使うことによってなんらかのデメリットを被る人々や業界に対して届けていないかという視点が重要だと思っています。
著名人と類似していないことを担保するツールの開発
AIモデル普及推進協会を旗揚げして、ガイドラインを出したわけですが、この後の活動はどういうことを考えていますか。
中山 ガイドラインの次は、「類似性チェックツール2」の開発運用を進めています。AIでつくったモデルが誰かに似ていないという一定の担保は必要だと思います。じゃあどこまで担保するべきなのか。類似性のチェックツールを使って、ネット上にある著名人と似ていないか、同一人物だとみなされる一定のパーセンテージを超えていないかどうかのチェックをすることは、すごく重要だと思っているので、トリプルアイズさんとツールの開発を細かくやっているところです。
会員もこれから増やしていくお考えですね。
中山 クライアントさんも含めて、賛同してくださる賛助会員を集めて協会としての説得力というか厚みを増していきたいと思っています。ガイドラインの刷新もやっていきます。経産省をはじめ各省庁がそれぞれガイドラインを出されるので、それに合わせて柔軟にガイドラインを変えていく必要があると思っています。
海外情報の収集はいかがですか。
中山 分科会を設けて、海外のAIモデルに関する調査や発表も行う予定です。制度だけではなく国民感情も含めて理解していた方がいいと思うので、海外にあるフォーラムとの連携も視野に入れています。ゆくゆくは、各国の生成AI系のガイドラインが一般化していく流れになると考えています。
研究者の間では、国際標準をつくりましょうという動きになっています。
中山 よりそれが現場の感覚に近いところで、ガイドライン化していく必要性を感じているので、経産省とも相談しながら、政策提言までやっていければと思っています。