人のパートナーとなるAIを探求する──慶應義塾大学教授・栗原 聡氏に聞く
第4回 “ブラック・ジャック”はいかに蘇生したか

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

作品内外で人とAIとが協働した“ブラック・ジャック”

先生ご自身は完成した作品をご覧なってどうお感じになられましたか。

栗原 手塚眞さんもおっしゃっていたのですが、結果として、単発の作品にさまざまな要素を詰め込んでしまった感があるかもしれません。大きなテーマを2つ入れ込みましたから。それにより、深みのある面白い作品になったとは思います。当初はテーマが1つだけだったのです。

先端AI企業CEOの娘さんの話と、ドクター・キリコの話ですよね。

栗原 はじめは、AIとのやりとりで出来上がったストーリーにはキリコは登場しませんでしたし、本間血腫の話も制作プロセスのなかで追加されました。

恩師である本間先生から託された不治の血腫をブラック・ジャックが治療したことで、旧作との連続性を感じました。また旧作には巨大な人工知能をブラック・ジャックが脳手術の要領で治療したことをきっかけに、AIが自分には心がないとしてシャットダウンする話がありましたが、今作ではブラック・ジャックとAIとが協力して患者の治療にあたっています。

栗原 あのシーンは、実は私のアイデアです。患者さんの女の子はアンドロイドで、人工臓器がマルチエージェントモデルとして稼働しています。人の身体と同じように、人工臓器どうしが連携して生命を形作っているわけです。なので、ブラック・ジャックが1つの臓器だけを手術しても血腫が治らなかったわけです。そこで一旦シャットダウンしたすべての臓器を稼働させてから、臓器の連携をAIに分析させることでバグが見つかって、そのバグを修正すると血腫を除去できるようになったのです。

そこで創発系としての身体や群知能という先生の研究テーマにつながるわけですね。またブラック・ジャックのアンチテーゼであるキリコが登場したことで、大きなテーマである生命についても立体的になっています。人の意志によって死を導くことを信条とするキリコが、ブラック・ジャックの手術によって埋め込まれた人工心臓によって生き延びるという結末も、見事なオチとして面白かったです。

栗原 そのあたりは流石プロのクリエイターたちがしっかり味付けをしていますから。作品が掲載されてからは、いわゆる“炎上”のようなことはありませんでした。ただし、6月に、このプロジェクトを発表した時点では、GPT-4とStable Diffusionで手塚作品を制作することについて、ヨーロッパでかなり批判されました。EU-AI法にみられるように、EUではクリエイティブに生成AIを用いることは、ほぼNGというスタンスですから。当時は手塚プロダクションにも、漫画の神様である手塚治虫作品のデータを勝手に使って作品化するのはけしからんというクレームも寄せられたと聞きましたが、完成後は1つの作品として捉えてもらえたようです。

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