AIが拡げる生命科学の可能性─藤田医科大学教授・八代嘉美氏に聞く
第1回 AI開発者がノーベル化学賞を受賞した意味
生成AIが再生医療にどう関わるのか
先生の著書『iPS細胞 世紀の発見が医療を変える』(平凡社新書)には、iPS細胞の樹立において、ES細胞に特異なはたらきをもたらす遺伝子を探すために、ゲノムのデータベースとタンパク質のデータベースを突き合わせたプロセスが記されています。
八代はい。理化学研究所が構築したFANTOM(Functional ANnoTation of Mammalian Genome)という、それぞれの細胞が持つゲノム情報のなかから、細胞に特徴的な遺伝子が発現するデータベースがあります。インターネットでも使えますから、それを使ったりしています。iPS細胞は、コンピュータでスクリーニングをしてきたものと、これまで重要だとされていたものとをドッキングさせて樹立されます。
私たち素人からすると、タンパク質の構造が精緻にわかるようになると、突合するデータが多くなって可能性が広がるのではないかと思ってしまいます。
八代実際に細胞を用いて実験生物学を行う私たちにとって、これまでタンパク質の「構造」そのものはさほど重視されていませんでした。iPS細胞もそうですが、回路を構成する「部品」としてタンパク質を捉えていて、ウイルス・ベクターなどで細胞内に遺伝子を導入し、無理やりタンパク質を発言させてどうなるのか、という手法で行われるのが常です。教科書などを見ると、タンパク質の構造として、紐状やリボン状のモチーフが組み合わさっているモデルが示されますが、あのようなモチーフが共通しているものを探すことはあります。ただし、私たちにとってのタンパク質はあくまで1つの部品という位置づけで、その部品がどのようなカタチなのかということや、水素結合や原子間力でこういうカタチだから、ということから考えを組み上げている人はほとんどいなかったのではないでしょうか。ですから、AlphaFoldなどを用いて、構造も視野に入れて研究をしたり、いままで自分たちが考えてなかったものどうしのインタラクションが見つかったりするという意味では、加速というよりも広がる可能性があるかもしれないと思っています。
GPT-4b microの記事をみながら、タンパク質を生成できると研究も捗るのではないかと思ったのですが。
八代タンパク質は、アミノ酸の配列が連鎖しているものですから、配列を操作することで、より結合性が高いものを見出すことはできるかもしれません。また効率が高そうなものどうしを結合させることも考えられます。人工的にタンパク質を設計することについて、これまでも研究はされてきましたが、自然界に存在しないタンパク質をつくり出すことは、なかなか困難でした。アミノ酸の配列が似ていても、タンパク質の立体構造は先程言ったようなさまざまな分子の関係性でつられています。その関係性のコアが変わってしまうと、立体としても形が変わってしまいます。そうすると、噛み合わないレゴブロックのように合わなくなってきてしまいます。そうした理由で、これまでは人工的にタンパク質をつくって細胞への影響をみる研究は簡単ではありませんでしたが、今後は創薬研究のような領域を中心として、研究が加速していくでしょう。