iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長・中村伊知哉氏に聞く
第5回 イノベーションを生み出す磁場

FEATUREおすすめ
聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

垣根のない創造の場をつくる

ここ最近、テクノロジーの使い方として、効率や生産性だけにフォーカスしている。そればっかりが進むと、不幸な人がもっと不幸になると思っていて、そうではないテクノロジーの使い方が模索されていくべきだろうと考えています。

中村 効率とか合理性を求めて、それで競争に勝つという価値観に対して、学生たちから根こそぎ違うって言われているような気がするんですね。つくって繋がるという感覚を今の世代はリスペクトしていて、僕はそこから置いていかれないようについていこうとしている感じです。

メリトクラシー(能力主義)社会でうまくいかない人たちにとって、サポートやセイフティネットになるのがテクノロジーの意義のひとつかなと思っています。そういう人たちがコンテンツをつくる際にエンパワーする方向にテクノロジーが使われればいいですね。

中村 幸せのありかを自分たちなりに見つけているような気がして、すごく先を行っているように僕には見えます。

素晴らしいですね。学生さんは増えているのですか。

中村 特に増えてもいないです。むしろこれからどんどん減っていくのも目に見えています。そこでいかに留学生を増やすかというのが経営的な課題になります。それから、シニアが思ったより少ないんですね。仕事を終えた層が全体の3割4割いても全然おかしくないと思っていて。これからの大学ってそういう場になるんじゃないかと思うんですね。日本の課題は大学だよなと思った時に、何をどう教えるというよりも、学びの場がそもそも足りないと感じています。産業界の人がスタンフォードに集まって遊んでいるみたいなことが日本の大学ではなさそうだし、もう少し垣根を取っ払って、遊んでつくるみたいな場があったらいい。

今お伺いしていて、京都大学は日本のなかでは学際的というか、横に広がっていく文化がありますよね。

中村 そうですね。今はちょっと管理が強くなってきて、立て看板禁止になっているから、あそこで禁止された立て看を全部うちの学校で引き取ろうと思っています。

面白いです。イノベーションというと、技術的に新しいことをやることだって思われていますけど、本当は、何かと何かをくっつけたり、新しい販路を開拓したり、今まで使ってなかった人に使ってもらうとか、そういう発想の新結合がイノベーションですよね。まさに垣根を越えて領海侵犯的に入っていかないとなかなかイノベーションは起きません。

中村 そうですね。おっしゃる通り新結合する場がちょっと足りない。昔は霞が関が磁場になって、いろんな人を集めていたけど、もうその力はない。じゃあどこが引き受けてそれをやるのか。大学もそこは機能していなかったけど、やろうと思ったらできることはたくさんあるんです。

時代が大きく変わる地点にきていて、人材の育成の仕方も変わっていかなければいけないということですね。

中村 AIが普及して真っ先に影響を受けるのが大学のはずです。今後10年で50%ぐらいの大学が潰れるんじゃないかと誰かが書いていましたが、僕はもっと早いんじゃないかなと思っています。大学がこれまで提供してきたようなことは、YouTubeとAIのほうがよっぽど得意なんで、3年もすれば全部そっちにやられてしまいますよね。それはもうユーザーや学生のほうがわかっている。だったら、大学ができることって何かっていうと、そうじゃない教育をする以外にありません。例えば、僕も大学は経済学部に入学したけど、最初の授業が全然おもしろくないのでまったく出なかった。後で振り返ると、何を勉強したらいいかわからなかったからです。大学に入った頃の子なんてそんなはずです。でも、働きはじめたら何を勉強しなきゃいけないかわかるじゃないですか。だから、順番が逆だと思うんですよ。ある程度、基礎教養を積んだら働いて、経験を積んだ後に、これを学びたいと思って大学に入るようにすればいいんじゃないかと思っていて。それを設計しようと思ったのが、「全員起業」なんです。最初に起業させたら、壁にぶつかるから、何を勉強しなきゃいけないかそこでわかる。そしたら勉強の仕方は教えてあげる。

強制的に社会をリアルに体験する仕組みですね。

中村 順番で言うと、最初に基礎的なコンピュータの使い方とかやるんです。そこで、4カ月インターンで企業に行きます。これは必須です。どこに行ったらいいか、何したらいいかわからない子が大半ですけど、とにかく企業に行ってボコボコにされて帰ってくるわけですよ。そのうえで起業させるわけで、そしたら法律とか経済とか統計とか、勉強するべきことが見えてきます。

社会に出てから大学に行くほうがルートとしては良さそうですね。

中村 人生100年時代に、どうやって働いてどうやって学ぶかを考えたら、大学は4年で終わりではなくて、40年ぐらい学びに行ける権利があって、そのなかでやりたいことを学ぶほうがいいんじゃないかなと思っています。(了)

1 2