iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長・中村伊知哉氏に聞く
第1回 成功体験が生んだ停滞──テレビはネット時代に適応できるか

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

市場は海外とネットにしかない

──今のお話を聞いていて思い出すことがひとつあって。それこそ90年代に、ハリウッド映画のマーケティング力を日本映画界も見習わなきゃいけないみたいな議論がありました。それに対して、日本のテレビのマーケティング力はもう世界のトップたるものだという話もあって、日本のテレビのビジネスとしての強さみたいことは言われていたように覚えています。

中村 アメリカはハリウッドとテレビとのせめぎあいがあって、ハードとソフトの分離が盛んに言われて、コンテンツはハリウッドが作って、テレビ局は電波で配信というルールだった。日本はその点、構造的にテレビというか放送の力が強く維持されてきました。僕なんかは90年代まで霞ヶ関にいて、その強さをどう活かせばいいんだろうと思っていたので、テレビの強いコンテンツ力をネットでも発揮するという意味での通信放送融合の推進派でした。だけど、「推進したくない」、「嫌だ」という放送業界を前にして、役所としても推進すべき政策だと言いつづけられなかったことがあって、日本では政策としては止まっていたと思います。

──それが90年代ですね。

中村 第三次小泉内閣の内閣改造で2005年10月に竹中平蔵さんが総務大臣になった時にいちばん最初に言ったのが、「なんで日本はネットでテレビ見られないんだよ」と。僕が呼ばれてこうですよって説明をしたら、それをやろうじゃないかとう話になって、彼は放送通信融合推進のために法体系をガラッと変えていこうとしました。

──もともと培ってきたテレビの強さが、今後の日本のコンテンツの強さに繋がってくることは考えられますか。

中村 国の戦略として考えたら、まず確かなベースがあることを認識するべきです。テレビが生活の基盤になっていたから潤沢なアニメ文化が生まれたり、ゲームコンテンツが出てきたりして、全部つながっていると思うんですね。そこのベースのところを壊さないで、デジタル時代にどう持っていくかというのが、今まさにやらなければいけないことだろうと思います。

──もしかすると、その今までの強さは内需の強さで、国内だけで維持されていたものがグローバルに出ていく、内側で鍛えられたものが世界に出ていく局面という感じでしょうか。

中村 そうですね。テレビの側から見ても、デジタルの市場がとれなかったら、この先、ジリ貧になるのは見えています。国内市場は大きくならないですよね。テレビの広告市場が先細りになって、やっと尻に火がついてきたっていうところだと思うんです。コンテンツでいうと、いわゆるコンテンツ政策みたいなものが90年代の初めぐらいに始まって、政府として力を入れるようになったのがちょうど20年前なんです。2003年に知財本部*1ができて、コンテンツを軸にする政策が始まりました。最初は経産省が音頭を取って、コンテンツをこれから伸ばしましょうという政策でいこうとしたんですけど、全然うまくいかなかったんですね。それは、最初は国内のアナログコンテンツ産業を大きくしようとしたからです。2010年ぐらいまでやって全然のびない。リーマンショックもあって、逆にコンテンツ市場がへこむみたいなことになって政策を転換したんですね。それが2010年頃で、転換した方向が海外とデジタル、この2つなんですよ。

──市場は海外とネットにしかないと?

中村 はい。そこから今の政策に移って、ここ数年でコンテンツの輸出が10年前に比べて3倍以上になっていたり、デジタルの配信が数パーセントだったりしたのが、今、半分ぐらいまで来ています。急激にネット配信というか、デジタル市場が大きくなったんですね。去年ぐらいから、政府がもう1回コンテンツが柱だって言いはじめたっていうのも、全然ちがう市場のことを指していて、海外のネットに日本の持っているアニメとかゲームを売りましょうという方向です。次の海外向けの市場に向けて、関連するコンテンツ業界や漫画もアニメもゲームも音楽も、最近は映画も海外で賞を取れるようになってきたりして沸き立っているんですけど、そこにテレビというか放送が乗っているかというと、乗れていない。まだアクセルは踏んでいない状況だと思うんです。

*1知財本部:知的財産戦略本部。知的財産の創造・保護・活用に関する施策推進を目的として内閣に設置された本部。クールジャパン戦略の策定、AI時代の知的財産権検討会などが行われている。

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