東京大学松尾・岩澤研究室 鈴木雅大氏に聞く
第1回 AIが世界を直感的に理解する「世界モデル」

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

人間は階層的に物ごとを認識している

松尾研に入る決め手はなんだったのでしょうか。

鈴木 当時ディープラーニングの重要性について力説していたのが松尾教授だったからです。他の機械学習を専門としている研究者は、当時ディープラーニングについてそんなにすごいとは言ってなかった印象がありました。機械学習の領域では何回かそういう新技術が出てくるタイミングがあって、たとえば、1990年代ぐらいに「サポートベクターマシーン(SVM)」という機械学習の手法が出てきて、最初はよくわからないけどすごいのが出たぞと思われていたのが、仕組みが明らかになるにつれて普通に使われる技術になっていったという話があって、ディープラーニングもそれと同じような形になるだろうとおっしゃっていた方もいました。機械学習の手法の1つみたいな感じで収束するんじゃないかと考える研究者も多かったと思います。私はどちらかというと機械学習というより人工知能に関心があったので、学生時代に最初に知ったときに、機械学習についてあまり詳しくないのもあってこれはすごいぞと思いました。そしてそれ以上に着目していたのが松尾教授で、いろんなメディアで、ディープラーニングの重要性について言及していました。

──鈴木先生ご自身はディープラーニングのどこに着目されていたのですか。

鈴木 そもそも私が人工知能が実現できるかもしれないと思ったのは、ジェフ・ホーキンスが書いた『考える脳 考えるコンピューター』(伊藤文英訳/早川書房)という本を読んだのがきっかけです。人間は外界の情報から階層的に物ごとを理解している。今日では特徴量や表現と言いますけれども、そういった階層的な特徴量を自動的に獲得しているという話をしているわけです。あと、知能にとって予測が本質的に重要であるという話もしていて、これは世界モデルの話にも繋がるんですけれども、そういった話を2000年代にすでにしていたんですね。これを学生時代に読んで、すごく衝撃を受けて、本当に人工知能が実現するかもしれないなと思ったころ、ディープラーニングが出始めて、これこそが人工知能を実現する方法かもしれないと思いました。ただし、機械学習の研究者の中では、ディープラーニングに対して慎重な見方をしている方が多かった印象が当時ありました。

なるほど。ガートナー社のハイプサイクルみたいに、ディープラーニングも最初は期待値が上がるけど幻滅期がくるだろうというイメージを持っていた方が多かったということでしょうか。私の印象ですと、トロント大学にいたころのジェフリー・ヒントン教授が画像認識コンテストで畳み込みニューラルネットワークを採用して優勝して期待が盛りあがっていたのかと思っていたのですが。

鈴木 世間的にはディープラーニングが結構すごいんじゃないかと思われ始めた時代だと思うんですけど、当時学生だった目線からすると、割と日本の機械学習研究者はそこまで盛りあがっている感じではなかった印象がありました。

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