AIとミュージシャンとの合作で生まれる新しい音楽
東京都市大学教授 大谷紀子氏に聞く 第2回
AIの得意な作曲とミュージシャンの個性
「ほうやれほ」という子守唄のプロジェクトも大規模ですね。
大谷 あちらは「“ゆめレスキュー”AI(人工知能)子守唄プロジェクト」というもので、東宝と出版社アルファポリスが主催している「絵本・児童書大賞」を受賞した『ゆめレスキュー』の発売にあたってプロモーションビデオにつかう曲を制作してほしいという依頼でした。
なにかのお題はあったのですか。
大谷 悪夢をみている子どもを救う“ゆめレスキュー”というバクが主人公の絵本だったので、子守唄をつくってほしいという依頼でした。日本古来の子守歌のデータをもとに曲をつくってほしいとのことでしたから、私としてはお借りしたデータをシステムに入力して、自動作曲されたMIDIデータを納品するだけでした。人選などは東宝さんが行いました。
ほかのプロジェクトと異なったことはありましたか。
大谷 ほかのミュージシャンの方々は、AIがつくった素材を多少変更して楽曲をつくります。このプロジェクトでは、生成されたほぼそのままの曲に大貫亜美さんが歌詞をつけて、PUFFYのお2人で歌ってくれたので、とても感激しました。
ほうやれほ/PUFFY 寝かしつけのためのAI子守唄
PUFFYの唱法は、2人がユニゾンでノンビブラートで歌うもので、AIで自動作曲したメロディーを歌うのに向いていそうです。先生のプロフィールを拝見すると、先生が愛聴されているのは……。
大谷 みゆき様――中島みゆきさんですね。
中島みゆきさんの楽曲は、コードや楽曲構成に奇を衒ったものは少なそうですが、なによりヴォイスと歌詞が他の追随をゆるさない説得力を持っていると思うのですが。
大谷 たしかにそうですね。曲をつくっても、彼女の才能がなければあの曲にはなりません。中島みゆきさんの曲は全曲好きなのですが、1980年代に『36.5℃』というアルバムを出したころの彼女の楽曲がいちばん好きです。これから新しいアルバムが出ても、あのころの曲の雰囲気はでてこないことはわかっていますから、いつか当時の曲を学習させて、彼女の新しい曲を自動作曲でつくれるといいなと夢見ています。
――『36.5℃』所収の「あたいの夏休み」には、偶然スタジオに来たスティービーワンダーが即興で弾いたシンセサイザーの音が入っていたりしますから、現実での再現も不可能ですね。
大谷 親から怒られながら家から電話をかけつづけてチケットを取ってコンサートにも2回行きました。ほかのファンの方といっしょに盛り上がるのも楽しかったですが、暗い部屋でウォークマンを耳にして曲を独り占めするほうが向いているとも感じました。そう考えると、AIで再現することも難しいかもしれません。当人がなににも代えがたいというファン心理も持っていますから。