情報戦略は私たちを誘引する
戦争と政治における心理

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テキスト 都築 正明
IT批評編集部

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ヒューマニズムにとどまらない倫理とは

不確実性下における意思決定についての考えかたについては、2024年3月に物故した心理学者ダニエル・カーネマンがエイモス・トベルスキーとともに提唱したプロスペクト理論や行動経済学の文脈で理解することは可能である。
そして、IT技術やAIをめぐる議論は、氾濫する情報に惑わされず、冷静な判断力を養うことが重要だという教科書的な文言で結ばれることが多い。
同じくシステムやアーキテクチャについても、あくまでもツールにすぎないから人間が適正な判断を行うべきだ、とも。
もちろん、合理的判断や倫理観を持ち合わせることが重要なのは間違いない。また自由意志や志向性を持たない人工物を責任主体とみなすのも、原始的アニミズムと変わらない発想である。
しかし、人とテクノロジーが相互浸透する現在において、倫理的な行為を遂行するにあたって技術を無視することも、また困難なように思われる。

ポスト現象学の立場をとる哲学者ピーター・ポール・フェルベークは著作『技術の道徳化』(ピーター=ポール・フェルベーク著, 鈴木 俊洋訳 法政大学出版局)をはじめとした著作において、ブリュノ・ラトゥールやドン・アイディ、そしてミシェル・フーコーの倫理へのアプローチを参照しつつ、社会の中で人間と技術の双方を位置づけて、ヒューマニズムに留まらない技術哲学にチャレンジしている。
「悪者探し」は自己正当化のロジックだし、リアリズムは現状追認のことではない。遠い未来でなく、今あるできごとに対峙すること。それが倫理的な態度であり、解決策をさぐる糸口になるのだろう。

技術の道徳化 事物の道徳性を理解し設計する

ピーター=ポール フェルベーク 著

鈴木 俊洋 訳

法政大学出版局

ISBN:978-4588010330

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