新しい「大きな物語」のために
ヒューマニズムを更新する試み

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著者 桐原 永叔
IT批評編集長

AIの再帰的な進化のループは可能か

早い時期に情報化社会の到来を予測してベストセラーになった本といえば、未来学者のアルビン・トフラーの『第三の波』(櫻井敦司訳/中公文庫)である。早い時期といっても、先に挙げた梅棹の『情報の文明学』の17年後だ。しかしながら社会への影響力はこちらのほうが上だったようで、80年代に若きビジネスパーソンだった方々はトフラーの予言のインパクトに大きな影響を受けており、未だにその名を口にする人もいるほどだ。

トフラーは、農業革命である第一の波、産業革命の第二の波につづく情報革命による第三の波について論じる。驚くのは「エレクトリックコテージ」という概念で、これは今日のテレワーク、リモートワークそのままである。トフラーは情報化社会を「プラクトピア」と呼び、より専門性、多様性のある小さな集団が共存しうると予想しており、解釈によってはクラスター、蛸壺化という点で当たっているともいえるだろう。

それ以上に注目すべき概念は生産(produce)と消費(consume)が肉薄する「プロシューマー(prosumer)」だ。工業化社会のフォーディズムの時代には、生産者と消費者は厳然と隔離され、需要と供給も同じく隔離されていた。それがプロシューマーとなって、農業社会で自ら生産した作物を売買し消費していたように、人々は情報化社会で、深くコミットした企業の生産物を消費したり、消費者は事物を生産しインターネットなどを介して販売したりする。個人はかつてないほど企業に接近しているし、企業もまた個人の心理やアイデアに寄り添おうとする。SNSの定着によってプロシューマーは普通の存在になっている。

それだけでなくもっと深いところで、消費と生産は肉薄している。そう思わされたのは生成AIが世を席巻しはじめてからだ。私たちの生産物であるAIを私たちは消費しながら、同時にまたAIに生産を促している。まだ芳しい研究開発の結果はみられないが、AIが自ら生成(生産)したデータを学習(消費)して、つぎのデータを生成(生産)するといったことは理論的にはありえることだ。

「生成AIに“生成AIが作った文章”を学習させ続けるとどうなる? 『役立たずになる』と英国チームが報告」(IT media 2023年6月21日)や、「COMBINING GENERATIVE ARTIFICIAL INTELLIGENCE (AI) AND THE INTERNET: HEADING TOWARDS EVOLUTION OR DEGRADATION? (生成AIとインターネットの融合: 進化か劣化か?)」をみると、AIが生成したデータによるAI学習はうまくいっていない。この再帰的ともいうべきループでは、現状まだまだAIの精度はみるみる落ちていくのだ。これをもって人間の重要性をいうことはできるだろうし、現状でもGithub Copilotのようなプログラム生成のAIにおいてはプログラムに熟練した人間がレビューできないと使用に耐えるプログラムにならないという報告も聞いている。

しかし、この状態が長期的なものだと考えるのも楽観的にすぎる。AIとAIが再帰的なループに完結して人を排除しながら、進化することを想定しておかねばならない。

だから、わたしは別の観点で人の重要性を感じている。

第三の波
アルビン・トフラー (著), 徳岡 孝夫 (翻訳)
中公文庫
ISBN978-4122009530


生成AIに“生成AIが作った文章”を学習させ続けるとどうなる? 「役立たずになる」と英国チームが報告
[山下裕毅,ITmedia]
2023年06月21日 08時00分 公開


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