医療IT企業メハーゲングループ代表・浦﨑忠雄氏に聞く
(2)産学連携から社会実装へ。医療のDXを前に進めるために企業の果たす役割とは
心電図表示アプリとクラウド活用の組み合わせが画期的だった
SCUNAは、データ伝送にクラウドを活用したことが画期的だったと思います。クラウド利用など今では他の業種であればどこでもやっていますが、医療の世界で6年前に始めた時には誰もやっていませんでした。クラウドを利用することで複数同時アクセスも容易になりしかもセキュリテイ面でも安全を担保できるようになりました。
一つひとつは技術的には大それたものではありません。心電図を表示するアプリケーションを使ってスマホで見るというシステムはそれまでにもありました。クラウドにデータを送るということも特に技術が必要な話ではありません。お医者さんがインターネットでアクセスしてWEBから何かを見るという行為もありふれたことです。ところがこの3つを組み合わせるということがタブー視されていたので、それを実現したことが斬新だったのだと思います。

同社資料より:心電計とタブレット、スマートフォン
ペースメーカーの遠隔モニタリングデータを一元管理するシステムを提供することで作業量を大幅に削減
「ORFICE」は各社ペースメーカーの遠隔モニタリングデータを自動収集・一元管理するシステムです。これは東京大学医学部附属病院循環器内科准教授の藤生克仁先生と共同で開発しました。
遠隔モニタリングのよくある課題としては、対象患者さんの数だけペースメーカーデバイスがあり、メーカーごとにWEBサイト、PDFフォームが異なるため、サイトから取得したデータを院内の記録へ転記する作業が多発することです。これは手入力だったりPDF添付だったりというかたちで行われています。このやり方では、遠隔モニタリングを行う患者さんが増えるほど作業時間が倍増し、また異なるデバイスなので作業が煩雑化します。
ORFICEは、ペースメーカー各社のサーバーに蓄積された、遠隔モニタリングデータおよびPDFレポートを自動収集し、データベース(DB)に登録します。これにより、遠隔モニタリング業務で最も負担の大きい各メーカー専用サイトの個別訪問や遠隔モニタリングレポートの紙管理(出力・ファイリングなど)が不要となります。
人的コストを削減できるうえ、異なるデバイスも一括管理できます。複数デバイスを1サイト確認で完了することで、1患者さんあたりに割く時間を減らすことなく、作業時間が短縮できることから、遠隔モニタリングを行っている多くの医療機関で採用が進んでいます。このシステムも、各社ペースメーカー会社が省みてこなかった「標準化」にニッチなビジネスチャンスがあると見て取り組んだ例と言えます。

同社資料より:遠隔モニタリングデータを自動収集・一元管理システム図
産学連携から社会実装へ――医療のDXを前に進めるために企業の果たす役割とは
先生たちからこんな仕組みをつくれないかというご相談を受けたり、あるいは私の長年の経験からこんな商品やシステムがマーケットから求められているといったことで開発を進めてきました。最近では新しい流れとして、医師のほうから一緒に研究しようよという話を受けることが多くなりました。共同での開発ということになるので、できあがったものに関しては大変愛着を持って推進してくださいます。それでできたのが「SCUNA」や「ORFICE」です。産学連携から社会実装へという、他の業界では当たり前になっている流れが医療においてもできつつあります。今までは、共同研究とは言っても、商品化まで実現しないことが多く、先生は論文を書けたけれども企業は儲からないといった例も多く見てきました。
「SCUNA」や「ORFICE」のようにプロダクトとして商品化されて企業にも収益がもたらされるという例は医療においては稀有かもしれません。流れが変わりつつあることを実感しています。
そこには企業側もどういう姿勢をとるのかが大きく影響していると思います。市場をつくってきちんとそこで収益が上がるものにしない限り、新しいテクノロジーは普及しないし患者さんの利益にもなりません。一緒にやることが企業にとってもインセンティブになりうるような研究なのか、つまりマーケットを知る者として、永続的にテクノロジーを提供し続けられるビジネスになるのかならないのか、はっきり発言することも企業の大事な役割だと思っています。
心電図の画像解析にAIを使うことも研究しています。例えば1カ月間の心電図を解析するとなると、現在は目視が主ですから2時間程度かかっているのですが、AIを活用することで30分にまで短縮することが可能になります。画像分析はAIが最も得意とするところで、画像診断の世界では早くからAIがとり入れられてきました。どんな先進技術も社会実装されないことには意味がありません。必要なときにストレスなく医療データにアクセスできるように、使いやすいインターフェイスを提供していくことが私たちの使命であると考えています。
(了)