経済学者・井上智洋氏インタビュー(2)
「デフレマインド」が阻む日本のDX
デフレマインドの内面化:30年で失われたもの
桐原 「アニマルスピリット」を持つ経営者は多くはないでしょうね。10年ほど前からジョージ・アカロフとロバート・シラーの『アニマルスピリット―人間の心理がマクロ経済を動かす』が話題になったりしてましたけど。
アニマルスピリット―人間の心理がマクロ経済を動かす
山形浩生 訳
東洋経済新報社
井上 昔は日本でも「アニマルスピリット」を持つ経営者が多くいたと思います。実は平成と言われる時代の30年間で、日本人の心がものすごく変わってしまったことに、私たち自身が気付いていないんじゃないでしょうか。この辺りは社会学者に研究してほしいと思うのですが、たとえば女子学生のリクルートスーツの色ひとつとってもずいぶん変わっているのですが、皆さん覚えていない。1990年ぐらいの就活生の写真を見ると、スーツが意外とカラフルなんです。それが徐々に色を失っていって、デフレが始まる1998年ぐらいには「喪服化」と言われていますが、真っ黒なスーツになって、シャツの襟の形などもみんな一緒になっています。最近に至っては髪型や化粧まで定型があってそれに合わせなければならないみたいな風潮ですよね。私は、これは心の保守性の象徴だと思っていて、個々の学生さんが悪いわけではなくて、世の中がそれを強いているに過ぎない。就職活動は減点方式なので、会社としてはすごく優れているかもしれない人を雇うことよりも、「こいつは入れちゃマズいだろう」という人を雇わないことに力を入れるんです。そうなると、学生の側も減点されないように考えるから、みんなと同じ格好をするのがいちばん楽なんです。
桐原 30年前はそんなにカラフルでしたっけ?
井上 写真を見て私も新鮮な驚きを感じました。でも、こういう変化が起こっていることに気がつかない。「デフレマインド」がすっかり内面化されている象徴ではないかと思います。公務員化が進んだのと軌を一にする話です。
桐原 著作のなかで「資産効果」にも触れられています。保有する資産に余裕があれば、支出も増えて、多様な事物に出費するようになる。資産がないから保守的な使い方しかできない。心とお金に余裕があったらもっといろんなことに冒険を厭わない「アニマルスピリット」につながるわけですよね。
井上 おっしゃる通りです。元ZOZOの前澤さんがお年玉で100万円を配っていました。その後の調査の仕事を手伝っています。わかったことは、お金があることによって、人々は気持ちに余裕ができたり、エンパワーされたりするということです。そのあたりの効果は、個人レベルで見れば懐に余裕ができると視野が広がるという行動経済学的な話になるし、マクロで見れば世の中に出回るお金の量を増やす経済政策が必要だという話になります。
