日本が真の生成AI時代を迎えるための条件
─GPUマシンNo.1企業ゼロフィールドのトップに訊く(2)

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

一見ブームを迎えているように見える生成AIだが、平嶋氏はAIエンジニア不足が解消され、企業のデータに対する意識が変わらない限り、日本での生成AI活用の時代は来ないと見ている。優れた技術者が正当に評価されない日本のIT業界に対する考えや変革を志した起業への想いについて訊いた。

取材:2024年2月1日 於ゼロフィールド会議室

 

 

 

平嶋 遥介(ひらしま ようすけ)

株式会社ゼロフィールド代表取締役CEO。上智大学理工学部情報理工科、上智大学院理工学研究科卒業後、NTTデータに入社。銀行向け勘定系共同センターへの機能追加・開発などを担当。2017年に株式会社ゼロフィールドを創業し、暗号資産関係のビジネスを展開。金融系システムやブロックチェーン関連の深い知識と豊富な経験を有しており、CTOとして開発チームを牽引しながらも、経営者として成長の道を歩む。2023年8月より代表取締役CEOに就任。

 

株式会社 ゼロフィールド(ZEROFIELD, inc)

所在地:〒108-0023 東京都港区芝浦3ー4ー1 グランパークタワー32F

URL:https://zerofield.biz/

事業概要:AI・ビッグデータ関連システム開発・運用事業/多用途高性能パソコン販売・運用事業

 

 

 

目次

ビットコインのETF承認の影響

技術をしっかり理解して提供していく王道を目指す

「AIだから間違えないはず」という幻想を捨てない限りAI活用はできない

スキルを身につけたら裕福になるような社会が実現できたらいい

 

 

 

 

 

 

ビットコインのETF承認の影響

 

──ブロックチェーンはいつぐらいから勉強されていたのですか。

 

平嶋 銀行のシステムをやっている当時にはじめて知ったと思うのですが、ちょっとバズワードっぽい感じがして、技術者は盛り上がっても、一般受けはどうなんだろうという感じで見ていました。本当にしっかり勉強しだしたのは、ゼロフィールドを創業してアービトラージ*を始める時ですね。

*アービトラージ(Arbitrage):裁定取引のこと。 裁定取引とは、金利差や価格差に注目して、割安な投資対象を買い、割高な投資対象を売るポジションを取ることで、両者のサヤを抜こうとする手法。 両者の価格が収縮したとき反対売買を行うことで投資収益をあげることができる。

 

──興味を持たれたのは、ブロックチェーンの思想としての面白さと技術としての面白さのどちらでしょうか。

 

平嶋 技術的にはすごく面白いと思いました。使っている技術は、全然新しいわけではないんですけど、それをうまく組み合わせることによって新しい技術になったという印象です。それこそブロックチェーンのように、前後のレコードをチェーンで繋げていく技術自体は1990年代からあったわけですが、それと分散コンピューティングを組み合わせることでブロックチェーンができた。聞いたことがあるようなものの組み合わせですけど、全体で見るとすごく新しいものだなと感じました。

 

──先日(2024年1月)、ビットコインの現物ETF(上場投資信託)を米証券取引所が承認しました。その後、ビットコイン市場では需要が拡大し、資金の純流入は2カ月足らずで70億ドル(約1兆500億円)を超え、年初から45%余り上昇し、一時は約6万3000ドルを突破しました。これは大きな変化ですね。

 

平嶋 ビットコインにいつ機関投資家が入ってくるんだみたいことは、これまでにも何回も話題に上がっていましたが、ETF承認のおかげで、見る目が変わってきていて、ポートフォリオに組み入れた方がいいんじゃないかと思う人が圧倒的に増えていると感じています。

 

──ビットコインのボラティリティ(価格の変動性)の高さがETF承認によって、いく分か和らげられるのかなと思うのですが。

 

平嶋 ボラティリティが他の金融商品より高い状態は変わらないと思うんですけど、変動幅が今までの半分だったり、3分の1ぐらいになってくることによって、ようやく決済として使うところの目線が持ちやすくなるのかなと思います。

 

 

技術をしっかり理解して提供していく王道を目指す

 

──暗号資産の運用会社ではなくて、マシンを販売する会社にしたのは、その方が利益が出るからですか。

 

平嶋 自分たちがどこで強みを出すのかとなると、やはり技術だと思うんです。暗号資産の運用系の話だと技術力というよりは、信用力とか営業力の話になってくるので、そこでは勝負できない。今後、暗号資産が普及していくのであれば、絶対マイニングが必要になるので、インフラ側に入る方が強いだろうというのも理由の一つです。大元の商流にいて、ノードを管理するとかマイニングをするとか通貨の仕様変更をするとか、そのコミュニティに入っていきたいという思いは強かったです。

 

──そこは技術者としてのこだわりですか。

 

平嶋 そうですね。表現するのは難しいですけど、日本の会社って、どうしても使いやすいものとか売りやすいものに目が行きがちなのかなと感じていて、本質のところで勝負する人が少ない傾向があります。最近の生成AIブームにしても、ChatGPTにオマケをつけてあげて、AIやってますみたいな会社が多いですよね。ブロックチェーンもそれに近いのかなと思っていて「NFTやってます」、「ブロックチェーンやってます」と言っても、結局、裏でコンサルが入っているだけとか。それこそマイニングだって、海外メーカーが売っているマシンを買ってきて、メーカーのサポートを受けて管理しているだけみたいな会社が多いですよね。技術をしっかり理解して提供していく王道的なところを避けていく風潮があると思います。

 

──AIも自社独自のモデルを開発するところは少ないですね。販売代理店と変わらないのにAI企業を名乗ったりしています。

 

平嶋 いろんな会社が独自の生成AIをしっかりつくっている状況になってはじめて、生成AIの時代って言えるのかなという気がしています。いまはChatGPTの時代ですよね。

 

──企業や個人が独自の生成AIを活用するときこそGPUサーバの出番ですね。

 

平嶋 そうですね。たとえばiPhoneとかも出はじめはAppleが出しているアプリがほとんどで、他の会社のアプリはありませんでした。今はそれと似ています。いろんな人たちが生成AIを当たり前につくるようになると、GPUサーバも多くの人に必要になるのかなと思います。

 

 

「AIだから間違えないはず」という幻想を捨てない限りAI活用はできない

 

──生成AIが個人の道具化して、AIが本当に民主化したときが変化の時代だろうと思っています。パソコンもITも興味がない人は多かったと思いますが、便利だから普及した。使っているうちに、とんでもない使い方をすることでイノベーションが起きたりもします。AIはまだそこまでは行ってないですね。想像の範囲内というか、新しいテクノロジーの範囲内にいます。

 

平嶋 そこは一般の人のAIやシステムに対する認識が変わってこないと、結構厳しいのかなって気はしています。先ほど、パソコンのパーツは壊れるもんだみたいな話をしましたけど、銀行のシステムが止まると、とんでもないことだと怒る人たちがいて、そういう人たちに、多分生成AIは使えないでしょう。普通のシステムだって、バグがあるのが当たり前ですから、生成AIなんてもっと間違う確率が高いわけです。AIだから間違えないはずだみたいな幻想を捨てない限りは、活用できないのかなと思います。

 

──AIは間違うから使わないと考えたら何もできなくなります。

 

平嶋 そうですね。じゃあ、お前は間違えないのかっていうと、間違えますよね。そうしたら、お前は使えないなって話になってしまいます。

 

──アメリカのマイニング業者は、2020年ぐらいから、AI用のGPUサーバの準備を始めていたと聞きましたが。

 

平嶋 そういうニーズがアメリカであると知って、うちもいろいろ動いていました。ただ、やってみて思ったのは、日本はどうしてもAIをつくっている人が少ないので、なかなかニーズを探しきれなかったという部分はあります。AIをつくっているエンジニアの数がアメリカに比べるともう全然少ないんだろうなと。

 

──なるほど、そこはしっかり現実を見ていかなければいけませんね。

 

平嶋 もう一つ気がかりなのは、日本の企業がデータに価値を感じていないことです。海外の企業はデータの管理をとても重要視しています。データを自社で管理することにお金をしっかり払っていたりするんですが、日本の企業はそこにあんまり価値を感じていない。たとえば、ChatGPTも、なんかデータを外に出すのは怖いからやめとこうみたいな考えがある一方で、そもそもそのデータは本当に自分たちで管理できているのか疑問なところがあります。

 

──むやみに怖がっている割にはデータの管理ができていないと。

 

平嶋 本当に機微なデータは社内でしっかり持っておくけれど、それほどでもない情報はクラウドに載っけた方が業務上効率いいよねみたいなところの、データに対する認識がしっかりできてくると、独自のAIが欲しいとか、オンプレが欲しいというニーズが出てくるかなという気はしています。

 

 

 

 

 

スキルを身につけたら裕福になるような社会が実現できたらいい

 

──平嶋さんが村田さんと一緒にゼロフィールドを立ち上げたときのモチベーションはなんだったんですか。

 

平嶋 私は、営業だけでなくエンジニアも高い給料をもらうべきと考えるタイプなんです。ものが悪くて営業の力がないと売れないのだったら別ですけど、特に日本はものづくりが得意なわけで、いいものは営業の力がなくても売れるのに、なんでエンジニアより営業の給料の方が高いの、みたいに思ってしまうんですね。

 

──もっとエンジニアは良い暮らしができて然るべきだろうと。

 

平嶋 スキルを身につけたら、イコール裕福になるような社会が実現できたらいいなという思いがあり、そのあたりで村田さんとも意気投合しました。

 

──それが平嶋さんが理想とする社会像なんですね。

 

平嶋 それこそ前職にいた頃に経験したのですが、システムに何か問題が起きたときに頼れる人というのが、社外から来て常駐していたエンジニアで、つまり下請けか孫請けの技術者だったのです。その方たちは、ベテランでスキルもあるのに、新卒の私よりも給料が少ないのはおかしいだろうと感じていました。

 

──なるほど、多くの方が指摘しているいわゆるITゼネコン構造ですね。日本の優秀なエンジニアが報われないという問題意識を持たれていたのですね。

 

平嶋 社員には技術的に尊敬できる人はあまりいなかったのですが、なのに、この人たちこんなにお金もらっているんだと思って。そういう世界は好きではなかったですね。

 

──会社のビジョンに「自由を創る」とありますが、これはどういう意味ですか。

 

平嶋 うちのサービスによって、人々がより自由になってほしいという意味を込めています。社会をもっと自由にしていくためにも、今のままではできないことがたくさんあります。暗号資産によって国に縛られない世界的な共通通貨がつくられましたし、AIがもっと発展してくれば、人間が単純作業をしなくてもよくなります。どんどん出てくる新しい技術を誰でも使えるようにして、普及させていくことで、もっと自由な社会になると思います。そのためにも、技術を直接届けることも重要ですし、使っていくために必要なインフラを提供していくことも重要です。それこそマイニングでいうと、自分の代わりに稼いでくれるものがあると、より自由な時間がつくれる。それに、暗号資産が普及していくうえで、多くの人がマイニングに参加しなければ、通貨は衰退していくでしょう。暗号資産の発展のためにもマイニングは重要なんです。

同時に「世の中になくてはならないものを創造し続ける」ということもミッションとして掲げていて、いろんな新しい価値をつねに提供していきたいと考えています。ゼロフィールドの社名も、何もないところ、ゼロからビジネスを創っていこうという思いで付けました。もちろんリソースや知識が前提として必要なことも多いですが、自分たちがやるべき、やりたいと情熱を持てる事業であれば、どんなジャンルであっても挑戦していきたいと考えています。(了)

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