AIモデル普及推進協会代表理事・中山 佑樹氏に聞く
第3回 AIモデルの進化がもたらすもの
中山氏がCTOを務めるAI model株式会社は、現実的なニーズと技術の進化を見据えてAIモデルの開発に着手。アパレル分野での導入を皮切りに、動画制作やIPビジネスなど多様な展開が進む今、AIモデルは「代替」ではなく、クリエイティブの新たな可能性として注目を集める。

中山 佑樹(なかやま ゆうき)
一般社団法人AIモデル普及推進協会代表理事、AI model株式会社 取締役CTO
慶應義塾大学卒業後、新卒で広告制作会社に入社。TVCMのPM/Prとして勤務。その後、WEBサービスやアプリ・システム開発会社での勤務を経て、2020年よりAI modelの開発に携わり、現在、AI model株式会社のCTOとしてAI・システム開発統括を行う。
目次
アパレル業界でAIモデルが普及したわけ
IT批評編集部(以下、──)中山さんがCTOを務められているAI model株式会社のビジネスについてもお聞かせください。クライアントはアパレル企業が多いようですね。
中山 6~7割ぐらいがアパレルの会社さんで、3~4割ぐらいはそれ以外の会社さんです。当初は8割ぐらいアパレルだったんですけど、アパレル以外の比率も結構あがってきているところです。
元々は広告系のデザイン会社だったんですよね。
中山 現代表の谷口大季がもともとアパレル系ECサイトの構築・運営やシステム開発をはじめ、マーケティングやブランディングを支援する会社を経営していました。ところがECの規模が大きくなってきたことで、担当がどんどん困るようになりました。それまではモデルさんと千葉の海沿いのスタジオに行って、クリエイティブな撮影をして、いい画が撮れたとか言っていたのが、倉庫に篭り切りになって撮影しないと間に合わなくなってきたんです。コンビニが近隣2キロ以内にないようなところに、モデルさんに1人で来てもらって、1日50着を着て脱いで帰る、カメラマンもとにかくシャッター切るだけみたいな、クリエイティブな現場というよりは、かなり労働集約的な現場になってきたんですね。
そこでAIによるモデル生成に舵を切ったわけですね。
中山 最初はAIありきで始めたわけではないんですけれど、明らかに今後、技術が伸びていくことを考えると、AIによるバーチャルヒューマンでの代替が有望だろうと。その分、キービジュアルや他の仕事のところでクリエイティブを発揮する立て付けがいいんじゃないかということで2020年に今の会社をスタートしました。サービスとしては2022年にスタートしているので、いま3年ぐらい経ちました。
2020年だとまだ生成AIは出てきてないですね。
中山 あるにはあったんですが、Googleが研究している生成AIがサイケデリックな画を描くとか、破綻した出力が出てきて面白いみたいなレベルですね。こんなものがこれまでの写真を代替するわけがないじゃないかっておそらくみんなが思っていたぐらいのタイミングです。
その当時は、会社にAIエンジニアはいたんですか。
中山 WEBに強いエンジニアさんが多かったので、私がジョインして協力させていただきました。2019年から20年ぐらいにジョインしたのですが、その段階では、まだ技術的にも追いついていなくて、試行錯誤していました。
AIモデルには具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。
中山 現実では、モデルさんに1日100コーデの衣装を着てもらうようなことは難しいですが、AIモデルなら可能です。逆に、撮影枚数が1枚だけだとモデルを呼びにくい、みたいなときでもAIモデルなら気軽に使えます。予算の関係でモデルの着用カットの撮影を諦める、ということもなくなりました。

アパレル業界はもう元には戻れないですよね。
中山 実際にモデルさんに着せて撮影することがなくなったわけではなくて、それは今後もあると思います。やっぱり実際のモデルさんが持つ表現力とかパワーが失われるものではないですから。あとは、有名なモデルを使うことで、そのモデルが着ているから買うみたいな流れはAIにはつくれない。インフルエンサーをモデルに使ってますみたいなタイプのビジネスとの相性はいいわけではありません。そういう意味でAIモデルは万能ではないんです。
AIモデルによって、人間のモデルやカメラマンの仕事は減っているのでしょうか。
中山 一概にそうとは言えません。AIモデルの使われ方は限定的だし、キービジュアルのように時間とお金をかけてつくり込むビジュアルには、人間のモデルさんもカメラマンも欠かせませんから。むしろ、これまでモデルさんを使えていなかった企業も多くあったので、そういうところにはAIモデルは福音になっていると思います。
AIモデルのIPビジネスとしての可能性
生成AIのモデルを使った動画をつくりはじめたのは伊藤園のCM1からですか。
中山 そうですね。ちょうど動画ができるようになったタイミングに、お話が来ました。伊藤園さんの場合には、パッケージにもAIを使っていて、商品自体も先進的な「カテキン緑茶」という飲料でした。顔を老化させる技術をCGでやるか特殊メイクでやるかAIでやるかという選択肢があって、商品のコンセプトとAIが合っているから、やれる会社を探そうというなかで、AIモデルを大手企業に提供していた私どもに連絡をいただきました。
いま進んでいる新しいプロジェクトについて教えてください。
中山 パチンコ機器メーカーであるSANYOさんとやっている「AIミスマリンプロジェクト」があります。「ミスマリンちゃん」というのは、「海物語」というパチンコ機器のキャンペーンガールで、毎年グラビアアイドルの方を選出してやられています。もちろんそれも継続したうえで、新しくAIミスマリンというプロジェクトも立ち上げるということでお声がけいただきました。

リアルのミスマリン自体は継続するわけですね。
中山 グラビアアイドルという仕事も重要だと思いますし、そこをAIが代替するのは、われわれとしても本意ではありません。そこは別軸で、むしろAIだからこそ表現できたり広告で展開できたりしやすいというメリットを別の形で出していきましょうという話なんです。
AIモデルを使うメリット、人のモデルを使うメリット
将来的なことを考えると、通常のCM撮影より費用も安くて手間もかからないのであれば、いずれいろんな業界がAIで広告動画をつくる流れになるのかと思うのですが。
中山 すごく難しいところだと思っています。長期的には、全部AIでつくる可能性もあると思います。タレントさんの働き方も変わってくると思うんです。10年単位の話であれば、タレントさんのイメージ自体をAIで動かして、本人は稼働しないみたいな話も出てくると思うんですね。
なるほど。ルックスの権利は自分にあると。
中山 ちゃんとお金がタレントさんに入るところまでの立て付けがあれば、フルAIはあると思います。ただ、ここ2、3年でその流れになるとは個人的には思っていません。いくつか理由がありまして、やっぱりタレントさんを使うことのパワーは確実にあって、その商品に対してタレントさんのイメージを投影して、それによってCMが成立している部分も大きいので、AIだけでやるのはうまくいかないだろうと思います。もう1つが、日本のCMをつくる体制が、AIでフル生成してCMをつくる体制に変わるのは相当難易度が高いと思っています。AIだとつくる側が制御できない部分も大きいし、その揺れを面白いと思いながら調整できるような知見がないと相当難しいと思います。
いずれ全部AIになるという大きいトレンドのなかにいるのか、それともクリエイティブのバリエーションが増えた感じなのか、どちらなんでしょう。
中山 長期的にはAIが代替する可能性はあるとは思うんですけど、現状においては1つのツールという位置付けだと思います。
アパレル業界は課題が明確で、モデルをAI化していくことのメリットがものすごく大きい。それ以外の業界は、AI化することのメリットは、現状のところはどうなんですか。
中山 コスト面やタレントのレピュテーションリスクみたいなことを考えると、バーチャルヒューマンを使うメリットはあると思います。あるいは先進性をアピールできますし。ABテストとか試行錯誤ができるところもあります。
なるほど。この方向違ったなと思ったら、すぐに変えたりできる。
中山 いろんなマーケットでトライアンドエラーができるので、いろんな会社さんが使うメリットはあると思います。ただ、CMを制作している大手の広告宣伝部が現状困っているかというと、困っているわけではないとは思うんですよ。アパレル業界の場合は明確に困っていたので導入が一気に進んだのだと思います。(了)