半導体から読み解く現代テクノロジー入門
第3回:なぜ半導体の“製造”は難しいのか?ナノスケールの超精密プロセス
第2回までで、コンピュータが「0と1の組み合わせ」で“論理”や“思考”を行う仕組みを見てきました。しかし、それらを支えている半導体チップそのものを作る作業が実は最も困難なのです。
その理由は「ナノスケール(10億分の1メートル)」という極端に小さな世界で正確に、綺麗に、素早く、何千万回も同じことを繰り返す必要があるからです。
ここからは半導体製造の“ものづくり”の現場を、代表的な技術とともに見ていきましょう。
目次
フォトリソグラフィーとは何か?
フォトリソグラフィーとは、半導体チップに“配線パターン”を描くための工程で、言うなれば「極小のスタンプ押し」です。光(フォト)を使って、シリコンウェハースの上に電子回路の設計図を“焼き付ける”技術です。
このプロセスは写真を現像する工程に似ており、光を照射して感光材にパターンを転写すると言う点で共通しています。半導体製造では、このパターンの線幅が数ナノメートルという極小サイズになるため、精密さと再現性が極めて重要です。
具体的な工程としては下記になります。
- 1:ウェハーに感光材(レジスト)を塗布
- 2:マスクを通して紫外線を照射
- 3:現像してレジストに回路パターンを転写
この“焼き付け”が綺麗にできなければ、後工程すべてが失敗します。まさに半導体製造の“根幹”をなす技術となります。
EUVとは?ナノ単位の描写の困難
ナノスケールの微細なパターンを正確に描写するために、フォトリソグラフィー技術も進化を遂げてきました。その中でも最先端の技術がEUV(Extreme Ultraviolet:極端紫外線)リソグラフィーです。
従来の紫外線では限界だった微細なパターン描写も、EUVを使うことで波長13.5nmという極端に短い光を用いて可能になります。これは人の髪の太さ(約10万nm)と比べても圧倒的に小さく「髪の毛の1万分の1の線を描く」ことに相当します。
しかしながらEUVには下記のような技術的課題もあります。
- 光源の確保が困難:EUV光は自然界にほとんど存在せず、特殊な装置で人工的に発生させなければならない
- 反射鏡の設計:EUVは通常のレンズでは透過せず、反射でのみ生業する必要があるため、高精度な多層ミラーが不可欠
- 高コストな露光装置:1台数百億円にも上るEUV露光機は、導入や維持に巨額の費用がかかる
それでもなお、スマートフォンや高性能サーバー向けの半導体チップ製造にはEUVが不可欠な技術となっています。最先端の“描写技術”が、世界の情報インフラを支えているのです。
フォトリソグラフィーで描かれたパターンは、あくまで“マスク”のようなものです。半導体製造では、このマスクに従って必要な部分だけを残し、不要な材料を削り取る工程が必要になります。これは「エッチング(Etching)」と呼ばれます。
エッチングには大きく分けて下記の2つの方法があります。
- ウェットエッチング:薬液(化学薬品)を用いて、露出した材料を溶かす方法
- ドライエッチング:プラズマ(イオン化したガス)を使って、物理的・科学的に表面を削る方法
現在主流となっているのは、より微細で高精度な加工ができるドライエッチングです。ガスを電気的に励起してイオン化し、それを狙った場所にぶつけて削るという方法で、なの単位の加工を可能にしています。
ただこのエッチングは下記のような理由で非常に難しいとされています。
- 加工精度が重要:ナノスケールの加工では、わずか数nmのズレがカイロの動作不良につながる
- アンダーカットの防止:マスクの下まで削れてしまう“アンダーカット”を避けるために、方向性のある加工(異方性エッチング)が必要
- 素材による差:材料の種類や硬さによって、適したエッチング条件が異なり、プロセス開発に高度な知見が求められる
エッチングは単なる切削作業ではなく、「材料をナノ単位で整える精密彫刻」のような工程です。その成功が半導体チップの性能や歩留まり(製造成功率)に直結するため、最先端の製造技術において極めて重要なステップとなっています。
クリーンルームの異常な清浄さ
ここまで、フォトリソグラフィーやEUVといった技術を通じて、半導体製造が“ナノメートル”という極限の世界で行われていることを見てきました。例えば最先端の回路幅は3nm──これは、人間の髪の毛の太さ(およそ10万nm)の3万分の1にすぎません。この世界では、わずか1粒のホコリが、まるで岩石が都市の模型に落ちてくるかのような衝撃をもたらします。チップ1枚に何億というトランジスタを正確に並べるには、“環境”そのものが超精密でなければならないのです。
その要求を満たすのが「クリーンルーム」です。名前こそシンプルですが、その清浄度は常識を超えています。日常の生活空間──例えば私たちの部屋の空気には、1立方フィートあたりおよそ100万個以上の粒子(ホコリや花粉、皮膚片など)が漂っているとされます。対して、半導体製造に用いられるクラス1のクリーンルームでは、その数が“1個以下”に抑えられていなければなりません。これは、宇宙空間よりも清潔とすら言われる環境です。
作業員がこの空間に入るには、宇宙飛行士のような完全密閉型のクリーンスーツを身につけ、専用のエアシャワーを通過しなければなりません。髪の毛一本、皮膚片ひとつすら漏れないよう設計されたスーツを装着するには20分近くを要し、着脱だけでも汗だくになります。作業現場では、呼吸や歩行すらホコリの発生源となるため、全ての動作が慎重に制御されます。
それでもなお、ほんのわずかな油断が製造ライン全体に致命的な損失をもたらすことがあります。実際、アメリカの大手半導体工場では、ある作業員がマスクをずらしてくしゃみをした結果、クリーンルーム内の環境が汚染され、数百枚のウェハーがすべて不良品となる事故が起きました。損失額は数十億円規模。この一件が「クリーンルームの管理はどれほど厳しくてもやりすぎではない」と業界の認識を変えたと言われています。
だが、制御すべきなのはホコリだけではありません。温度がわずか1℃違えばシリコンウェハーが微妙に膨張し、描かれた回路パターンがズレてしまう。湿度が数%変化するだけで、レジスト材や薬品の反応性が変わってしまう。さらには、地面がわずかに振動するだけでEUV露光装置のレーザーがナノ単位でズレてしまう──こうした微細な揺らぎをすべて抑え込む必要があるのです。
これをたとえるなら、「東京スカイツリーの先端から糸を垂らし、地上に置いた針の穴に通す」ような制御。重力、風、気温、すべてを読みきった上で、ミスなく実行する必要があります。クリーンルームとは、そうした“精度と制御の極限”を実現するための空間なのです。
こうした徹底的な清浄管理をしていても、なお避けがたい問題が存在します。それが、回路のさらなる微細化によって生じる“歩留まり”の低下です。製造プロセスをどれだけクリーンに保っても、寸分のズレも許されない世界では、不良品のリスクはどうしても高まります。では、この“微細化と歩留まりのジレンマ”が、なぜ技術革新の中で最大の課題として立ちはだかっているのかを読み解いていきましょう。