経済学者・井上智洋氏インタビュー(2)
「デフレマインド」が阻む日本のDX

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

前回(1)は、技術者がテクノロジーの負の側面に目を向けない現状や、中国がAI大分岐によって日本はおろか欧米諸国を置き去りにするほどの成長をとげる可能性について話を聞いた。

ITは社会をさまざまに変えてきた。新たな企業が登場し市場を制覇する。わずか数年の単位でビジネスは様変わりしていく。しかし、残念ながら日本から新たなグローバル企業が登場したとは言い難い。むしろますます取り残されているようだ。

社会を変えたITはマクロな経済のみならず、企業会計や消費行動といったミクロ経済学も根本から変えようとしている。そこにはAIによって、気づかないうちに変えられる人の行動があるようだ。

井上 智洋(いのうえ ともひろ)

駒澤大学経済学部准教授。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、IT企業を経て、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。2015年から現職。博士(経済学)。人工知能と経済学の関係を研究するパイオニアとして、学会での発表や政府の研究会などで幅広く発言。AI社会論研究会の共同発起人をつとめる。著書に『「現金給付」の経済学』(NHK出版新書)、『人工知能と経済の未来』(文春新書)、『ヘリコプターマネー』『純粋機械化経済』(以上、日本経済新聞出版社)、『AI時代の新・ベーシックインカム論』(光文社新書)、『MMT』(講談社選書メチエ)などがある。

目次

アーキテクチャによる不正の抹殺:テクノロジー本来の社会性技術が加速する時代の恐ろしさ:「アニマルスピリット」と「デフレマインド」

桐原 卵と鶏といった議論かもしれませんが、経済力があっての技術力なのか、それとも技術力があってこその経済力なんでしょうか? 

井上 これは両方がいい循環に入ってしまったら、グルグル回っていくんですね。今日(4/28)見たニュースでは、トヨタが研究開発に思い切って1兆円投資しますと言っています。一方でアップルがAIと5Gの研究開発に50兆円使いますという記事があって、象徴的でした。企業どうしがここまで研究開発で競争する時代もこれまでなかったと思います。以前は投資という言葉自体が新しい機械を導入する「設備投資」を指していて、それが競争の中身だったわけですが、今は投資といえば、研究開発にどれだけ投じられるかが勝負になってしまっている。そこが企業の命運を分けるようなっていて、これが本当に技術が加速する時代の恐ろしさだと感じています。お金をかけて新しい技術を生み出して自社の製品に搭載するというサイクルが重要で、それをGAFA は理解しているからAIに対してどんどん投資している。日本の大企業の経営者が「AIも大したことがないことがわかりました」なんて言っている間に彼らはガンガン投資していますから差がつかないわけがありません。

桐原 大手企業の経営層は頭からAIに対して懐疑的で、少しでも問題があるシステムならうちは使わないよという姿勢なんですね。「100%間違いのないものにしてから持ってこい」という感じです。これではAI導入なんて進まないですよね。

井上 企業経営者などがリスクを恐れずに積極果敢に投資する様を、ジョン・メイナード・ケインズは「アニマルスピリット」と呼んでいます。私はその正反対の精神を「デフレマインド」と勝手に呼んでいます。デフレ不況が長く続くと、企業も労働者もマインドが保守的になってしまって、攻めの姿勢がなくなってしまいます。労働者の側で言えば公務員志向が高まるというのが、デフレマインドが生み出した結果です。経営の側で言えば、「投資はしません」「賃金も上げません」「内部留保を確保します」というのが典型的なデフレマインドです。日本を復活させるためには攻めの姿勢が必要でAIもどんどん導入すべきだと考える人は少なくないのですが、日本がそもそもそういう保守的な国になってしまったのはなんでだろうという根っこのところを考える視点が必要です。

雇用,利子および貨幣の一般理論 上下巻

ケインズ 著

間宮陽介 訳

岩波書店

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