ノーベル賞とテクノロジーの経済を巡る省察 第5回 AI、情報科学、そして「ユートピア」への緩慢な歩み
AIの進化があらゆるものを市場化していく時代のなかで
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2024.11.15
テキスト
桐原 永叔
IT批評編集長
現在のなかに未来を読みとり、過去のなかに教訓を見つける
現在、ハイエク的な自由主義はテクノリバタリアンのような極端な自由への希求へ発展している。彼らは、すでに国際政治さえ左右しうる企業を組織し、国家規模を凌駕する産業研究所を有している。
デロングのいうユートピアはこの先に実現するだろうか。たとえばサム・アルトマンが目指すユニバーサル・ベーシックインカムは富の配分を新しい時代に合うように実現するだろうか。
若森みどりは同書で自由主義者のいう自己調整的市場は画に描いた「ユートピア」にすぎないといい、経済的自由主義がもたらすのは欲望にまみれたディストピアだと論じている。
カール・ポランニーが早くからみていたように、労働と土地と貨幣は現在ますます市場化を極めている。労働生産は経済合理性でのみ測られ、土地と貨幣は投機の対象として金融商品の頂点にある。そうした状況はAIや情報科学によってさらに加速しながら、社会の中枢に組み込まれていっている。
議論は思わず遠くまで来てしまった。国家的な一大プロジェクトであった産業研究および開発がいまやグローバル・ビックテックの手にわたってしまった。
AIの進化があらゆるものを市場化していく時代において、わたしたちが目指す未来とは果たしてユートピアなのだろうか。ディストピアなのだろうか。
テクノロジーは決して後戻りせず、イノベーションが古い価値を破壊して登場するのだとしたら、わたしたちは前を向くしかない。これからくる未来を考えつづけ、そこに潜む問題を予期して対処していくほかない。現在のなかに未来を読みとるしかない。過去のなかに教訓を見つけるしかない。(了)