何故なしに生きるということ
「PERFECT DAYS」と神秘主義

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テキスト 桐原 永叔
IT批評編集長

小津と禅

ニーナ・シモンの“Feeling Good”は、アルバム「I Put Spell on You」のB面の1曲目に収録されている。デジタル音源が当たり前の昨今、なんでそんなことを知っているかといえば、わたしはむかしからこのレコードアルバムを持っていて愛聴していたからだ。だから映画でこの曲が流れたときには涙を禁じ得なかった。いったい、それは主人公と同じものだったのか、わたし自身の過去が蘇ったためかはわからない。そのままにしておきたい。

それでは、なぜこのアルバムを持っていたのかといえば、これまたヴェンダースにまで辿れる。というのもアルバムタイトル曲“I Put Spell on You”はスクリーミン・ジェイ・ホーキンスのもので、その曲を知ったのは──わたしの世代の多くのサブカルファンがそうであるように──ジム・ジャームッシュ監督の映画「ストレンジャー・ザン・パラダイス」で、なんども安っぽいカセットプレーヤーで再生されるからだ。そして、ジャームッシュの「ストレンジャー・ザン・パラダイス」はヴェンダースから譲り受けたモノクロフィルムがもとで撮影されたものなのだ。思い出してしまったので書き足すが、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」でもジョン・ルーリー演じる主人公が競馬をするシーンで、馬の名前が「晩春」、「出来ごころ」、「東京物語」とでてくるのだ。

ジャームッシュにも「パターソン」という、乗合バス運転手の非常に静謐な日常が描かれた映画がある。映画「パターソン」に小津の影響をみるのは、「PERFECT DAYS」にそれを認めるのと同じぐらい容易なことだろう。「パターソン」の主人公も、あたかも俳句のような詩をノートに書き綴るのを日課にしている。

そして、欧米の批評はこれらの映画に対し声を揃えていうだろう、ZEN(禅)の世界だ、と。

ストレンジャー・ザン・パラダイス

ジム・ジャームッシュ (監督)

ジョン・ルーリー, エスター・バリント (出演)

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パターソン

ジム・ジャームッシュ (監督)

アダム・ドライバー, ゴルシフテ・ファラハニ (出演)

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