医療IT企業メハーゲングループ代表・浦﨑忠雄氏に聞く(1)
日本の医療技術はトップレベルなのになぜDXは進まないのか?

STORYおすすめ
取材・構成  土田 修
IT批評編集部

メハーゲングループは、代表・浦﨑忠雄氏が1992年(平成4年)に高度医療器械販売業と医療用IT企業を福岡で設立、診療用画像の転送を手始めに、院内物流の効率化などITソリューションを提供してきた。昨今の厳しい環境のなかで特色ある病院経営のサポートツールとして、病診連携の構築、新薬治験実施の支援、老人ホームから独居老人に至るまでのバイタルデータ管理など、さまざまなITサービスを有している。

同グループが2015年に開発したクラウド型12誘導心電図伝送システム「SCUNA(スクナ)」は、救急隊員がとった心電図をモバイルネットワーク経由で専用のクラウドサーバにアップロード、連絡を受けた医師はどこにいてもスマートフォンやタブレット端末、PCで心電図を確認できるシステムである。急性心筋梗塞の早期発見と治療が可能になり、搬送患者の予後改善にもつながることから、全国各地の病院施設・救急隊で導入が進んでいる。また、2017年に開発した、心臓植込み型デバイス・一括遠隔モニタリングシステム「ORFICE(オルフィス)」は、各ペースメーカーの遠隔モニタリング情報を、1つのシステム上に一括表示させるシステムであり、増加する遠隔モニタリング業務の負担軽減に役立っている。

コロナ禍によって日本の各セクターでのDXの遅れが取り沙汰されている。医療業界においても、医療技術は進化を遂げたにもかかわらず、医療周辺におけるデジタル化(患者データの一元化など)は他業種にも増して遅れが目立つ。30年にわたり、日本の医療のIT化・DXを先頭に立って取り組んできた浦﨑代表に、医療におけるITの果たす役割、さらにIT化を進める上での障壁などについて話を聞いた。

メハーゲングループ代表。大学卒業後に医療機器輸出関連企業から医療機器の製造企業、医療機器輸入商社を経て福岡で独立。医療機器サービス一筋の道を歩む。グループ9社、合計510名の社員を率いる。趣味は囲碁。

目次

社名に込めた「医療改革」の思い

私たちの会社名「メハーゲン(mehergen)」はオランダ語のMedisch Hervomingen を日本人にわかりやすいように短縮した造語で『医療改革』という意味があります。

医療技術では、日本は世界でもトップレベルにあります。ところがデータ管理に代表されるような医療全般のDXに関して言えば、オランダや北欧のほうがはるかに進んでいます。医療のIT化において、そうした先進国に近づけるようにサポートしたいという意味をこめて社名としました。

日本の医療はデジタル化においては進歩が遅いと言ってもいいと思います。北欧であれば、医院に予約をして、決まった時間に行けば診察を受けられて、終わればそのまま帰宅することができます。会計時に待たされることもありません。ところが日本では、予約していても朝の7時半から並ばなければなりません。また、帰るときにも会計でまた待たされます。院内ではある検査室では何時間も待たされているのに、他の検査室はガラガラといったアンバランスな状態も見受けられます。医療の技術はほとんど世界トップレベルであるにもかかわらず、そんな何十年前の光景が未だに繰り返されています。日本人はたった数分の診療のために半日を費やすということを当然のように受け入れていますが、それは世界的に見て非常識なことです。韓国でも中国でも待合室がいっぱいなんて光景はありません。進歩が遅いと言ったのはそういう意味です。

ニッチなニーズを汲み取って新しいマーケットを開拓する

創業当初の1992年(平成4年)に医療機器の動画配信の仕組みをつくりました。心筋梗塞を検査するときに撮影する動画像があったのですが、これをデジタル化してアーカイブする仕組みをつくったのです。技術的にはけっして難しいものではありませんが、デジタル化して保存するということができていませんでした。医師が診察して検査した後に患者さんに治療計画を話します。その際、静止画像ではなかなかわかりづらい心臓の狭窄箇所も動画であれば明瞭に説明できます。このシステムは全国200カ所以上に導入されて、今も使われています。開発時点で4社ぐらい競合がありましたから、それだけニーズがあったということです。

医療の精密機器に関していえば、日本国内にはグローバルな会社がたくさんあります。精密機器であるCTやMRIなどで病巣を見る技術は進んでいました。しかし、そこで得られたデータをみんなが見られるように、電子カルテと連動して簡単に取り出せるような仕組みがありませんでした。

メーカーにしてみれば医療機器を売ることが目的であり、データを管理することにビジネスとしてのインセンティブを感じていなかったからかもしれません。取得したデータが患者さんの情報とつながることは売る側にとってはどうでもいいことだったのです。

そういう意味では先行する大企業がビジネスとしてのうまみを感じないところで、ニッチなニーズを汲み取って新しいマーケットを開拓するという、他業種でも同様な状況が医療の世界においてもあったということです。

私どもは医療機器の商社でありながらIT企業としての側面も持ち合わせています。医療機器商社としては後発なので特色がないと受け入れてもらえませんから、IT分野での特色を生かして相乗効果を狙いながら戦略を進めてきました。

規模が小さいクリニックや個人経営の町の病院にも役に立つのが本来のIT化のあり方

現在、メハーゲンの事業の中心なっているのは、病院の業務支援システムです。簡単にいえば病院内外のデータの一元化です。クラウド型の電子カルテシステムや経営支援システム、SPD(院内物流管理システム)などです。SPDでは、医療材料や薬が院外から運ばれてきて、病棟や手術室で消費されて、レセプト(明細書)に反映するという一連の流れをデジタル化するというものです。多くの病院では、未だにこれらの作業を紙に書き写してやっているところが一般的なので、私どものシステムを使って効率化することで経営支援と収支分析を容易にします。

電子カルテについて言えば、大手の病院の6割ぐらい、中小では4割弱ぐらいにしか普及していません。それがデータベースをつくるうえでの大きな障壁になっています。電子カルテが普及してこなかったのは、コストがかかりすぎるからです。しかも大手メーカーの電子カルテは、互換性がありませんから入れ替えようとすると何億円という膨大な費用が発生してしまいます。様々な部門システムからの電子カルテへの接続料も何百万円もかかります。データは一元化できない限り有効に活用できません。医療業界でIT化が進まない最大の原因と言えます。

この高額なシステムの理由は、表向きは人の命に関わるクリティカルなものなので仕方がないとも言えますが、一方で大手企業が寡占化してしまったためとも言えます。データだけを蓄えるのであれば、今はメモリも安くなっていますから、そんなにお金はかからないはずです。システム導入のために人を教育しなければならず、さらに安定的に運用するために常に人手が必要になるといった不効率きわまりない仕組みがコストを押し上げているのです。

500床以上ある大病院では、電子カルテの導入時に7〜8億円かかると言われています。ある大病院の院長先生は、「電子カルテのシステムを入れ替えるために経営している気がする」とため息をついておられました。電子化するための費用は大病院であっても大変なので、国が先導してデータのインターフェイスを標準化するなどしなければ病院側の負担は減らないと思います。でなければ、IT化が進めば進むほどシステムを連携させる費用はすさまじいことになりかねないのです。

私たちはクラウド型の安価な電子カルテシステムを提供して、小規模医院におけるIT化をサポートしています。元々、IT化の本質は大規模病院だけが恩恵に預かるものではないはずです。今までは、大手メーカーによる大型のシステムばかりが注目されてきましたが、小規模のクリニックや個人経営の町の病院にも役に立つのがIT化のあり方だと思います。若い先生方はクラウド活用が当たり前という世界で育ってきていますので、開業する際から安いクラウド型の電子カルテを導入する方も増えてきています。

1 2