携帯網の限界を越えて、人と人をつなぐ新たな手段を探る
災害時に携帯がつながらない理由──“IP携帯電話”という次の選択肢

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著者 志村明彦

IP携帯電話がもつリスクヘッジの効果

災害時には携帯電話はつながりにくくなるという事実は明らかです。だからこそ緊急時には音声通話を提供していないプロバイダー回線を経由したIP電話がリスクヘッジとして効果を期待できると考えられるのです。しかし、そこには課題も残っています。

現在、普及しているIP電話は、コストダウンを目的とした固定電話の置き換えが主であり、携帯電話を置き換える、あるいは補完するソリューションではありません。 Skype が唯一その代替となる可能性がありますが、Skype は携帯電話の置き換えを目指したアプリケーションではないため、電話(0ABJ 番号)にシームレスに接続するサービスとしては充分ではありません。

今回の大震災の大きな教訓の一つが、通信手段の確保であることは間違いありませんが、そのリスクヘッジの最有力の手法は、「IP携帯電話」以外、選択肢はないと私は考えています。

「IP携帯電話」であれば、電話番号は050を割り振られていますから、普通に発信、着信が可能です。しかも、インターネットに接続できる環境があれば、キャリアの電波を気にすることなく通話を行えます。

むしろ、緊急時にはキャリアの電波を経由せずに通話ができることが重要なのは申し上げた通りです。ただし、それは固定回線ではなく、無線プロバイダーであるべきです。

インターネットこそ有事に効果を発揮する

そもそも、インターネットはこうした大惨事や、あるいは戦争状態でもデータのやりとりとデータの保管を目的に開発されたものです。

現代は、民間利用が大半を占めるようになったために忘れられがちな事実ですが、インターネット(IPパケット通信)はそもそも軍事技術として開発されたものです。戦争や災害などの非常時に、その実力を発揮してこその技術ともいえるものです。

軍事目的で開発されたインターネットによる通信技術の強度が、民間利用のなかで証明された例として、震災の少し前から北アフリカで続発している、いわゆる「ジャスミン革命」をあげてもいいかもしれません。

というのは、国や政府などの権力側の規制で一時的に制限を加えられても、それを回避する通信手段を用いてインターネット環境は維持されました。その結果、あらゆる弾圧に対抗しうる民衆の組織化が行え、それが革命中でも使えていたのです。

権力側が破壊や妨害を行うなどして意図的に通信不能状態にしたとしても、IPというインターネット標準規格は迂回路を経由して通信を可能にしうる、柔軟性と強靭さをもっているのです。

中国共産党がインターネットに脅威を覚え、徹底的に管理しようとするのも、インターネットによる通信のこうした強さにあるからでしょう。

災害や、戦争や革命といったあらゆる有事のときでも強かに情報コミュニケーションを支援することができるのは、インターネットが軍事目的で生まれた技術であることに由来しているのです。

人と人をつなぐことが武器になるか、あるいは救いになるかは、人間、自然の営みによるものでしょう。しかし、インターネットが非常事態のなかでこそ、その本質的な強さを発揮することの理由は地続きなのです。

IT企業の有事における使命

災害時に大きな貢献をしうるのはIT企業であってしかるべきです。もちろんそれは災害だけでなく、あらゆる有事の際にいえることだと考えています。

技術的な拡張で、社会における情報通信のリスクをヘッジすることこそ、IT企業に与えられた使命であることを、今回の震災で再認識させられました。

まずは、IP携帯電話を含め、災害時の通信リスクをいかに軽減できるかを模索していきたいと考えています。

わたしたちが目指すのは、もちろん人と人をつなげることで、救いを生むことです。

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