OSの思想と端末の自由度から読む勢力図の変化
アンドロイドOS はアップル帝国の牙城を崩せるか?

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著者 三浦一紀

複雑な動作をさせないことがi P h o n e の強み

ここではまず、iPhoneを含めたスマートフォンについて論じていこう。

スマートフォンは、根本的には「携帯電話」である。そのため、本体の大きさには自然と制約が生じる。そして携帯電話であるため、使う人がパソコンを操作できるユーザーばかりではない。ここがポイントだ。

iPhoneは、手のひらサイズであることを意識し、できるだけユーザーに複雑な操作をさせないように設計されている。格子状に並ぶアイコンも、ほとんどが画面上をタッチするだけで操作できる感覚も、ユーザーに操作に関する迷いを抱かせない。また、歴代のiPhoneは基本的に操作性や機能は統一されているため、仮に何かわからないことが生じても、近くにいるiPhoneユーザーに尋ねればたいていのことは解決してしまう。

アンドロイド搭載のスマートフォンはそうはいかない。同じアンドロイドOS搭載でありながら、ハードウェア、OSのインターフェイスともにバラバラ。

また、ひとつの目的のために操作体系が複数存在するのも、この手の機器としてはあまり歓迎されない。たとえば、メールアプリを起動しようとした場合、画面上にあるアイコンをタッチする以外にも、普段は隠れているメニュー画面から起動するという方法も存在する。加えて、機種ごとにボタン配置もOSのインターフェイスも異なるため、同じアンドロイドOS搭載のスマートフォンを持っているユーザーに操作について尋ねたとしても、必ずしも解決できるとは限らないのだ。

逆にいえば、アンドロイドOSは自由度が高いため、ユーザーが好きなようにカスタマイズして使えるのがメリットともいえる。しかし、そのような使い方を希望するのはかなりのヘビーユーザーだけではないだろうか。一般のユーザーは、携帯電話は手軽に使いたいと思っているはず。そのあたりをアップルはきちんと理解しているといえるだろう。単純にアップルというブランド力だけでiPhoneが売れているというわけではないのだ。

アプリのダウンロードに見る両陣営の思想の違いもうひとつ、iPhoneが人気の理由に、多彩なアプリをダウンロードして楽しめるということが挙げられる。テレビCMでも、ゲームや実用系のアプリを多数画面に登場させて、無限の楽しみ方を提供しているという印象を与えている。

2010年8月末現在、iPhone、iPad向けのアプリをダウンロードできる「App Store」には、25万本のアプリが登録されている。

しかし、アプリに関してはアンドロイドも「Android Market」が存在する。こちらは2010年8月末で12万本のアプリが登録されている。数だけ見れば2倍の差があるが、どちらもアプリの数に関しては必要十分といえるのではないだろうか。

だが、このアプリに関しても両者の違いが浮き彫りとなっている。

アップルは、アプリの開発者がApp Storeに登録する際に、あらかじめ審査を行う。そのため、AppStoreに登録されているアプリは、ある程度の信頼性があるといえる。

アンドロイドのAndroid Market は、App Storeとは真逆。アプリ開発者は、自由にAndroid Market へ作成したアプリをアップロードして公開が可能。その際、グーグル側のチェックはない。そのため、かなりくだらないアプリも多い。なかには、機器が動作不良になってしまうといったアプリもある。そのようなアプリは、通報を受けたあとに削除などの処理を行うシステムになっている。

なお、Android Market は、有料アプリであってもダウンロード後24時間以内であれば、キャンセルすることができる。アップルは有料アプリの場合は、ダウンロードの際に自動的に課金されてしまうことを考えると、24時間キャンセルシステムは親切といえば親切だが、なんとなく言い訳のようなシステムにも見える。

この2つのシステムを比べてみても、やはり思想の違いは明らか。アップルは、アプリ開発者をコンテンツの「供給側」としてきちんと管理しようという意図が見えるが、グーグルはアプリ開発者を「ユーザー側」と認識し、あくまでも場所を提供するというスタンスといえる。どちらが端末を使用するユーザーに優しいかは、一目瞭然と言えるだろう。

アンドロイドはタブレット型端末で魅力を発揮

ここで、話をタブレット型端末に移してみよう。iPadが大人気となった要因は、iPhoneと同じ操作体系をもちつつ、画面が9・7インチと大型で、画面をタッチしての操作感が親しみやすいということは冒頭で述べたとおりだ。しかし、その反面意外と重く、立ちながら手で持って操作するのが辛いと感じることも。最近巷でよく聞くのが「7インチ版のiPadが出れば…」という声だ。

アップルの思想としては、9・7インチという大画面が、iPhoneとは違うユーザー体験を与えるということなのだろう。確かにそれはそのとおりだ。だが、iPadには現在画面サイズは1種類しかない。店頭でiPadを見て、その大きさに購入を控える人もいる。

そこでアンドロイドだ。アンドロイドは、ハードウェアは各メーカーが開発・製造を行うため、同じアンドロイド搭載タブレット型端末でも、さまざまなバリエーションのものが存在する。先日NTTドコモが販売を開始した、「GALAXY Tab」は、7インチのTFT液晶を搭載し、片手でも持てるように配慮されている。また、iPadでは3G回線でも音声通話はできないが、GALAXY Tabは音声通話をサポートしている点もおもしろい。

つまり、iPadでは実現されていない「7インチの液晶をもつタブレット型スマートフォン」という製品が、アンドロイドOSを使えば作れてしまうということが、アンドロイドのおもしろいところなのだ。iPadの場合は、アップルが(もっといえばスティーブ・ジョブズが)「7インチのiPadなんて必要ない」といえば、当面製品化されることはない。

しかし、アンドロイドならばハードウェアのメーカーがそのような端末を作ろうと思えば、製品になってしまうという自由さがある。

スマートフォンと違い、タブレット型端末は、画面が大きい分、OSのインターフェイスはパソコン的であるほうが使い勝手がよいと感じる。その点においても、OSのインターフェイスをハードウェアに合わせて作り込めるアンドロイドのほうが、タブレット型端末には向いているのではないだろうか。

実際に、アンドロイドOSを搭載した端末は海外ではかなりの数が発売されている。なかには、電子書籍リーダーの「Kindle」のようなモノクロの液晶と、スマートフォンサイズのカラー液晶を搭載し、それぞれに別々のアプリの画面を表示させることができる端末もあるなど、かなり独創性の高い製品もある。

このような、ハードウェアの多様さが求められるジャンルでは、アンドロイド陣営の無限の可能性が活かされるはずだ。

タブレット型端末こそ両者の対決が楽しめる

ただし、この分野でiPadに可能性がないかというと、そんなことはない。

iPadに搭載されているOSは、まだ古いバージョンの「iOS3」だ。これが、iPhoneと同じ「iOS4」にバージョンアップされれば、マルチタスク対応に加え、アプリケーションをフォルダで分類することができるようになる。これにより、iPhone4と同等の使いやすさとなることだろう。

個人的にはマルチウィンドウ(1画面に複数のアプリの画面が表示される機能)が搭載されると、さらに使い勝手が向上するのではと期待している。

スマートフォンにおいては、デザイン、使い勝手、人気とあらゆる点において、iPhoneが突出している感がある。いくらソフトバンクモバイルの回線が弱く、電波が入りづらいと文句を言ってみても、iPhoneの代わりは存在しないため、使い続けてしまう。実際、iPhoneを一度手にしてしまうと、もう普通の携帯電話には戻れないと感じる。それだけ、スマートフォンとして完成されているといってもいいだろう。

一方タブレット型端末においては、iPadの人気は高いが、実は決定的な製品ではない。乱暴に言えば「iPhoneを大きくしたもの」でしかない。アンドロイドがタブレット型端末で決定的なモデルをリリースすることができれば、スマートフォンはアップル、タブレット型端末はアンドロイド、という棲み分けになるかもしれない。

ただし、アップルがそう簡単にアンドロイドにタブレット型端末の分野で主導権を握らせるようなことはないだろう。今後、アップルとアンドロイドのせめぎ合いがどうなるのか、要注目だ。

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