上海万博が未来通信とスマート社会に投じた布石
ITの視点から見た上海万博レポート
世界初の「ネット万博」
IT関連のトピックで、もう一つ忘れてならない上海万博の特徴といえば、万博史上初となる「ネット万博」がある。万博会場および大小350のパビリオンをネット上に出現させ、ユーザーが世界中のどこからでも上海万博を楽しむことができるものだ。3DVIA Virtools などの3D技術を用い、パビリオンの周囲360度を見回したり、上から鳥瞰したりすることもできる。万博に行かずに楽しむことができるのはもちろん、万博に行く前に各パビリオンの展示内容を調べたり、それらの効率の良い回り方を調べることもできる。「ネット万博」は上海万博終了後もそのままコミュニティとして継続していく予定である。
このように、ITでの特徴を前面に出し、IT技術立国としてのPRに勝負をかけた中国だが、もちろん単純な「技術の展覧会」では終わらない。
上海万博のホスト国は、世界の経済大国になろうとしている新興国であり、同時に将来的な成長を見込める巨大市場である。自国の巨大市場が魅力的であることをホスト国は十分に認識しており、企業側も同様に戦略的に利用している。
上海万博は世界第2位の経済大国を目前にIT技術立国を目指す中国と、世界一魅力的な市場への参入を目論む世界のIT企業とのしたたかな蜜月という側面が強い。
中国市場を狙う各国のIT企業
2009年7月に建設を開始したアメリカ館は6000㎡あり、上海万博内で最大級の国家パビリオンの一つだ。アメリカは政府としては出展せず、民間の大手企業がスポンサーとなっている。
注目すべきはスポンサーにIT企業が多いことだ。アメリカ館の正式スポンサーであるインテルや単独PCスポンサーであるDELL。
単独PCソフトスポンサーであるマイクロソフトは、Windows などを提供するほか、各スポンサーにMicrosoft Tag(2Dバーコード)を提供。携帯電話のカメラでこのコードを撮影すれば、情報が映し出される仕組みだ。館内のネットワークはTD-LTE技術のプロバイダでもあるモトローラが請け負う。
隣のカナダ館のスポンサーには、スマートフォンのBlack Berry(ブラックベリー)で知られるRIM(リサーチ・イン・モーション)が名を連ねる。RIMは2009年12月、中国国内でブラックベリーのインターネットサービスの開始と新しいブラックベリーのリリース、中国移動のTD-SCDMA およびTD-LTE 標準をブラックベリーのサービスに導入することを発表した。さらに2010年3月には、世博局(万博実行局)とスマートフォン部門のスポンサーとして契約している。これにより万博期間中、世博局のスタッフらは万博専用の応用システムを導入したブラックベリーを業務で使用し、内部の対応にあたる。電話、メール、ショートメッセージ、スケジュール管理などの多機能で上海万博の実行をサポートするという。RIM は上海万博を機に中国との関係を強化することで、伸び悩む中国市場での展開を打破したい考えだ。
都市市場から地方市場を見据えて
筆者は5月の半ばに上海万博を訪れた。当日は24万人以上の来場者があったそうだが、来場者は中国の地方都市からの団体旅行者がほとんどだった。揃いのキャップをかぶり、大型バスに乗ってやってきた万博観光ツアー客だ。上海市民の姿はまだほとんどないようで、周囲の上海在住者に聞いてみても、すでに上海万博を見に行った上海市民はほとんどいないようである。
しかし、地方からの観光客が多いことはむしろ、上海万博で自社PRをするIT企業にとっては良いチャンスであるといえるだろう。たとえば、携帯電話メーカーについていえば、中国通信キャリア各社は世界金融不況の間も3Gネットワーク設備への投資を続けてきたため、地方都市においてもITインフラが整備されており、地方へと市場を拡大するのに絶好のチャンスが訪れているからだ。
日本の高度経済成長とのシンクロ
2010年の上海万博の開催が決まったのが02年12月。前年の7月にはすでに、08年の北京五輪の開催が確定していた。中国における01年からの約10年間は、日本における1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博の開催と同じようなものであろう。この間、中国は海外からの投資を積極的に誘致し、世界でもトップクラスの経済力をつけた。
中国政府も中国の市民も、オリンピックと万博という世界的なイベントの開催と成功を目標に邁進するなかで、世界における自らの立ち位置に自信をつけてきた。急激な経済成長を実現し、将来的にも成長を続けるであろう巨大市場を有する国で万博が行われることは、これまでも、これからもない可能性が高い。
2010年の上海万博はIT技術という意味でも、経済活動との密着性という意味でも、万博史上に残る万博となるに違いない。