長期主義は見えない未来を変えられるか
第3回 未来の善を享受するのはだれか──長期主義とテック企業の倫理的ジレンマ
世界にとって効果的な善をなすことが可能ならば、未来にとって効果的な善をなすこともできるだろう――こうした発想のもとで生まれた長期主義は、未来の担い手を自認するテック・ジャイアントの起業家たちの思惑と合致した。
目次
功利主義を通時的に展開した長期主義
効果的利他主義を寄付や慈善活動の平面的な視野を広げる思考として捉えると、長期主義はそれを時間軸において広げる思考だといえる。また前者が世界規模での影響力を考えるのにたいし、後者では人類全体の利益を考えるというフレームワークを提示している。
長期主義のマニフェストともいえる『見えない未来を変える「いま」―〈長期主義〉倫理学のフレームワーク』(千葉敏生訳/みすず書房)においてマッカスキルは「いまや1番重要なことは、われわれが人類史を終わらせるのを避けることだ」と人口倫理主義を主張した哲学者デレク・パーフィットの人間中心主義的功利主義に賛意を示しつつ、人類絶滅は世界人類の99%を死亡させる大惨事よりも憂慮すべきできごとだとする論をひく。
絶滅が圧倒的に悪いできごとである理由は、それが将来生まれてくるはずだったすべての人々の誕生を妨げるからだという。
パーフィットは、快適な状態で少数の人間が短期間において存続するよりも、悲惨な状況であれ人類が長期間存続するほうが望ましいとすることを「いとわしい結論」としつつも是認する。
そのうえで『重要なことについて』第2巻(森村進、奥野久美恵訳/勁草書房)では、未来へとつづく現在の人類が歴史上もっとも重要な時間を生きているとして「我々は歴史の蝶番(Hinge of History)に生きている」と述べて、今すぐに行動することを呼びかける。
これは1984年にかれが『理由と人格 非人格の倫理へ』(森村進訳/勁草書房)に記した「次の数世紀が人類史で最も重要であるだろう」の延長線上にある言辞だとも考えられる。
見えない未来を変える「いま」――〈長期主義〉倫理学のフレームワーク
ウィリアム・マッカスキル (著)
千葉敏生 (翻訳)
みすず書房
デレク・パーフィット (著)
森村 進, 奥野 久美恵 (翻訳)
勁草書房
デレク・パーフィット (著)
森村 進 (翻訳)
勁草書房
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