イノベーションを生み出す磁場
iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長・中村伊知哉氏に聞く 第5回

中村氏が学長を務めるiU(情報経営イノベーション専門職大学)では、どんな学生がどのような学びを得ているのか。イノベーションを生み出す教育のあり方について聞いた。
取材:2025年2月10日 iU竹芝サテライトオフィスにて
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中村 伊知哉(なかむら いちや) iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長 京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学で博士号取得(政策・メディア)。1984年、ロックバンド少年ナイフのディレクターを経て旧郵政省入省。1998年、MITメディアラボ客員教授。2002年、スタンフォード日本センター研究所長。2006年、慶應義塾大学大学院教授。2020年4月、iU学長に就任。著書に『超ヒマ社会をつくる』(ワニブックス)、『ポスト2020の都市づくり』(共著、学芸出版社)、『コンテンツと国家戦略』(角川書店)など。 |
目次
全員が起業する大学
桐原永叔(IT批評編集長、以下──) iU(情報経営イノベーション専門職大学)はどのようなビジョンがあるんでしょうか。
中村伊知哉氏(以下中村) 全員が起業する大学です。全員起業に成功することで「就職率ゼロ」を目指しています。とはいえ、たいていは失敗するので、その失敗からいかに学ぶかという失敗大学にしたい。学生の数で割った起業の数で言えば、起業率ではいま日本一になっています。ある意味、これは本意ではなくて、起業家を育てる大学だと見られてしまっている。本当は世の中を引っ掻き回すようなイノベーターを育てたいというのが本音です。
──授業のなかに起業が組み込まれているんですね。
中村 全員1回起業して、失敗して世の中に出ていくみたいなことです。
──どういう学生さんが多いんでしょうか。
中村 いわゆる学力偏差値で言うと、高いのもいれば低いのもいて、よくわかりません。「行動偏差値」と言って、問題解決力とかコミュニケーション力が高い子が多いです。入試もいろんなやり方をしていて、英数国の入試もあれば、プレゼンの入試もあれば、何人かで討論させてみるという入試もあります。
──実際に起業するビジネスはどんなものですか。
中村 共通点として、ほぼ全員がデジタルを活用するビジネスです。もうひとつは、社会起業が多いです。つまり、孫正義になりたいとかビル・ゲイツになりたい子は少なくて、誰かの役に立ちたいという方向ですね。スタートした時がコロナ禍だったので、その影響かなと思ったんですけど、そうでもなくて、今の若い世代の特徴だなと思うようになりました。
──社会起業家を目指す子が多いというのは、他でも聞きます。
中村 そんなに大きくなくてもいいから、仲間や家族と楽しく食べていける、みんなハッピーにできるような仕事ができたらいいっていうノリが多いんですよね。多分それが主流になっていくんじゃないかって気がしています。