日本のコンテンツが世界を魅了する理由
iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長・中村伊知哉氏に聞く 第3回

日本のコンテンツ文化は、一部の天才が生み出すものではなく、庶民の創作の積み重ねによって発展してきた。音楽や漫画、アニメが世界に広がるなか、それをビジネスとして展開するための課題とは。
取材:2025年2月10日 iU竹芝サテライトオフィスにて
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中村 伊知哉(なかむら いちや) iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長 京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学で博士号取得(政策・メディア)。1984年、ロックバンド少年ナイフのディレクターを経て旧郵政省入省。1998年、MITメディアラボ客員教授。2002年、スタンフォード日本センター研究所長。2006年、慶應義塾大学大学院教授。2020年4月、iU学長に就任。著書に『超ヒマ社会をつくる』(ワニブックス)、『ポスト2020の都市づくり』(共著、学芸出版社)、『コンテンツと国家戦略』(角川書店)など。 |
目次
日本にはプロではない何十万ものつくり手の土壌がある
桐原永叔(IT批評編集長、以下──) 中村さんのFacebookを拝見していると、日本にもともとあった大衆芸能が、いま我々に引き継がれて、コンテンツを創作するうえでの力になっているのを感じます。
中村伊知哉氏(以下中村) 当然それはあります。日本のコンテンツの源になっているもののひとつが庶民文化だと思うんです。ヨーロッパのような貴族文化が下りてきたものではなくて、庶民の間でずっと培ってきたものが続いてきた。音楽も絵も、もう全部それなので、日本でどうしてこんなに漫画が進化したかっていうと、素晴らしい漫画家がたくさんいたからというよりも、いい歳した大人がむさぼり読んでいたからですよ。
──確かにそうですね。
中村 アメリカもヨーロッパもそうした表現は、一部のトップクリエイター、天才がすごいものをつくって下ろしてくる社会だと思うんですけど、日本にはプロではない何十万ものつくり手がつくり続けている土壌がある。日本じゃないとコミケは成立しませんよ。
──小中学校に音楽や図工の時間があるのも大きいですよね。
中村 近代以降に学校教育の果たしている意味は大きいと思っていて、これほど音楽と図工の授業がしっかりしている国はありません。国民の大部分が縦笛を吹ける国って日本しかない。海外で道を聞かれて地図を書くとびっくりされるんです。彼らは空間を把握して絵に落し込む練習をしていないから。すごいボリューム層の庶民の審美眼と表現力があって、そのうえに立っているプロがいて、クールジャパンが成立している。だから政治家の集まりに呼ばれて、どうしたらいいかって聞かれることがあるんですけど、結局やってほしいこと、やんなきゃいけないことって教育と自由の2つしかないと思っているんです。音楽や図工の時間を倍増してくださいって言うようにしていますが、逆にだんだん少なくなってきていますよね。あとは、表現の自由を狭めようという動きには、何にせよぜんぶ大反対です。表現の自由をしっかり守ってくださいというのが政治に言いたいことです。