AI、情報科学、そして「ユートピア」への緩慢な歩み?
ノーベル賞とテクノロジーの経済を巡る省察 第5回
AIの進化があらゆるものを市場化していく時代のなかで
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2024.11.15
テキスト
桐原 永叔
IT批評編集長
自由な市場経済と福祉制度が妥協的に合体し社会的安定を図ってきた時代が終わり、AIや情報科学によって市場化が加速する先には、どんな世界が待ち受けているのだろうか。
目次
AIや情報科学の常識が社会の常識になる時代
近代を通じて自然科学の常識が社会科学の常識になっていった。自然科学が行なった知識の体系化、科学的方法論を適用することで社会科学は発展したのだ。自然科学の観察と実験は社会科学の観察と統計に置き換わった。
AI、情報科学の発展はこの傾向をさらに強化して進行している。もっと言えば、AIや情報科学の常識が社会の常識になる時代はすでに始まっているのかもしれない。
AIや情報科学の方法論が社会に浸透することで、自然科学から社会科学への知識の移行がさらに加速していると言っていいのではないか。
ノーベル化学賞を情報科学者が受賞したことは端的に理解しやすい。経済学賞においても、AIを活用した研究者──たとえば因果推論のような──が近い将来に受賞者になるという想像は難しくない。
そのうえで、今回、物理学賞に情報科学者が輝いたことは、客観性と真実性の頂点にあった物理学の座を情報科学がとってかわりうるという未来を感じさせるものだった。
データ主導の意思決定やアルゴリズムの利用が拡大する現代社会において、単なる理論の域を超え、AIや情報科学が社会常識として定着する可能性がある。こうした時代にはテクノロジーの透明性や倫理的な側面にも注意が求められる。