発明を生む仕組みの発明
AI、情報科学、そして「ユートピア」への緩慢な歩み? 
ノーベル賞とテクノロジーの経済を巡る省察 第4回 

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テキスト 桐原 永叔
IT批評編集長

「長い20世紀」の終焉

 

国家と企業が技術発明をもとにしてより大規模に組織化していく過程は、まさに日米の貿易摩擦の原因にあたるものだろう。欧米諸国を追走する東アジア各国がここ数年までつづけてきていることでもある。キャッチアップする側の国家ほどむしろ組織化には強い力が働くし、より過激に行われる。自然科学の客観性、絶対性にもとづいて新しい技術が生まれ、経済合理性を追求して組織化が進行するというふうにいえるだろう。
デロングのいう長い20世紀において、もっとも重要な分野のひとつが物理学であった。相対性理論が時間と空間への認識を変え、量子革命を通じて半導体といったテクノロジーを次々と生み、原子力爆弾(あるいは発電)という国家の組織化なくしては生まれ得なかった技術を産み落とした。
デロングは長い20世紀を、2010年をもって区切っている。リーマンショックを契機とした世界金融危機をひとつの終焉として、“ユートピア”への次の歩みが始まったとしている。
偶然なのか、なんらかの相関があるのかはわからないが、未来に語られる歴史を想像するに、2010年代はおそらくAI時代の始まりとされることだろう。
それは、物理学と同等以上にAIが重要性をもった時代の始まりだ。いや、今回のノーベル賞をみればAI、情報科学の領域はあまりにも広い。物理学が宇宙までをその領域に収めているとすれば、AI、情報科学は人間、生命そのものをその領域にふくんでしまうだろう。
AI、情報科学の時代は、物理学の時代に覇権を握っていた国家に変わって、企業が存在感を増している。グローバルサプライチェーンによって国境をある程度、無化して、企業が国家をコントロールしうる組織となる部分が目立つようになっている。
ヒントンやハサビスの出身国より、所属していたグーグルが話題になるのはその表れのように思える。

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