AI、情報科学、そして「ユートピア」への緩慢な歩み? 
ノーベル賞とテクノロジーの経済を巡る省察 第3回 

不可避な進化を認めたがらない政治家

REVIEWおすすめ
テキスト 桐原 永叔
IT批評編集長

これまでのレビューでも何回か述べてきたが、AIによるユートピア論も脅威論も、どちらも建設的な議論を生み出しはしない。しかも、それが政治家の口から飛び出してきたら警戒すべきである。

 

 

目次

老人有権者が好みそうなAI脅威論

AIや半導体の分野を忌避して日本社会が成り立つと考える愚

 

 

 

 

老人有権者が好みそうなAI脅威論

 

ノーベル賞が日々発表されるなかで、個人的に面白いエピソードを耳にした。これ以降の論旨にも関係してくるので紹介したい。
それは、とある県の知事候補者が開いた片田舎でのタウンミーティングでの話だ。その場に出席していた人から聞いた話である。
そのタウンミーティングに参加していた初老の男性が、AIの時代について質問をしたそうだ。内容は詳しく聞かなかったが、その脅威についてだ。知事候補は次のように答え、質問者を喜ばせたという。
「アルファ碁という囲碁のAIは開発するのに原発1つ分の電力を消費した。大きな社会問題だ」と。
先に述べたハサビスのディープマインド社のアルファ碁はAI同士で対局することで膨大な時間を学習に費やした。この際に消費した電力のことを言いたかったようだが、とんでもない誤解と誇張があるのはいうまでもない。学習時のピーク電力は600kW前後と見積もられており、これは一般家庭に換算すると約150世帯分の電力消費に相当するとはいえ、原子炉の出力には遠く及ばない。

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