AI、情報科学、そして「ユートピア」への緩慢な歩み?
ノーベル賞とテクノロジーの経済を巡る省察 第2回
日本人研究者の基礎理論でもっとも利益を得た者
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2024.11.12
テキスト
桐原 永叔
IT批評編集長
1980年代後半に日本の産業界が主にアメリカから浴びせられた「基礎科学研究へのタダ乗り論」とは何だったのか? 日本人研究者らによる人工知能の基礎理論研究の功績が無視されたかのように扱われていることに歴史の皮肉を感じるのはわたしだけだろうか。
目次
タダ乗りは誰か?
甘利俊一氏と福島邦彦氏の基礎となる理論研究について、昨今の半導体をめぐる経済安全保障、地政学の論点からも考えるべき点がある。
前々回の記事「#48 ソフトウェアからハードウェアへ IT技術25年周期説で占う未来」でもふれておいたように、1990年以降は日本経済にとって衰退の途であり、世界のトップから落伍していく歴史であった。それはちょうど半導体製造の世界シェアを失っていく歴史でもある。
この衰退は、1985年のプラザ合意からはじまったとされる。主要5カ国(アメリカ、日本、西ドイツ、フランス、イギリス)による、ドル高是正によって各国間の貿易不均衡を緩和する目的で決定された為替政策だ。これによってもたらされた円高で、日本の製造業は大打撃をうけた。半導体産業も競争力を削がれる。プラザ合意の翌年1986年には日米半導体協定を結ばされ、理不尽な輸出規制と市場開放(によるアメリカ製品の輸入拡大)が進んだ。
結果、それが日本の「電子立国」時代が衰退に向かう一因となったのだが、この時期にアメリカ側から繰り返された日本の産業批判は「基礎科学研究への貢献が少なく、応用技術に依存して利益を上げている」というものであった。アメリカからは「日本企業はイノベーションの原点である基礎研究への投資を避け、欧米が生み出した知識を活用して利益を上げている」というタダ乗り論が噴出した。