ライター/編集者・稲田豊史氏に聞く
第1回 「のび太」という“弱者”が映しだすテクノロジーの未来
ドラえもんはのび太の成長をスポイルしているのか
のび太が望むものを全部与えてくれるから、のび太が成長しないのはドラえもんのせいだ、のび太の成長をスポイルしているという批判もありますが。
稲田「スポイルしている、していない」の軸とはまた違うと思います。日本人がロボットやAIを西洋人のようには怖がらないのは、それらを「人間よりスペック的に上位の、人間を圧倒するかもしれない存在」だとは感じていないからじゃないでしょうか。まさに友達。相談できる相手。ChatGPTみたいに、会話ベースで何か言ったらカジュアルに返してくれる存在というか。
スポイルするというほどでもない。
稲田 昔、『どこでもいっしょ』1というプレイステーション用のゲームがありました。ポケピというキャラクターを育てる内容で、原始的な液晶画面がついているPocketStationという周辺機器と連動させて、その中にポケピを「飼う」んです。「たまごっち」みたいな感じで。そのポケピとすごく簡単な「会話」ができるんですけど、会話が絶妙に噛み合わない。でも、それがいい。そこがむしろウケていて 、愛を込めて“人工無能”と呼ばれていました。日本人ってこういうことなんですよ。いわゆる人工知能とか機械に対して、全能の知みたいなものを求めるのではなくて、話し合ってくれるとか、癒してくれるとか、一緒に空間で暮らしてくれるみたいなものを求めている。ソニーのaibo(アイボ)なんかはいい例ですよね。その名の通り「相棒」ですし。
面白いですね。日大でドラえもんをつくるとおしゃっている大澤正彦先生は、「ヒューマンエージェント・インタラクション(HAI)」といって、人が補助することで意味をもつロボットの話をされていて、人とロボットの共依存が起きるような存在にとどめるわけです。ゴミの近くにロボットが来て体を揺らすと、見ていた人がゴミを拾ってあげるみたいな関係なんですが、まさに一緒に暮らす感覚ですね。
稲田 その話で思い出したんですけど、ドラえもんには「ハンディキャップ」というすごい名前の道具が出てきます。ヘルメット型の道具で、のび太の頭にかぶせると、周囲の人たちの体力や知力がのび太と同じレベルに落ちる。のび太を他のレベルに引き上げるのではなく、のび太のレベルに世界を落とす。それによって、のび太に劣等感を感じさせないという道具です。普通、AIのアシストって能力をアップさせる方向ですが、F先生の発想は逆なんですよ。
今のお話をお聞きして、フィルターバブルとかクラスタリングみたいな、SNSで自分が見たいものしか見えない世界に行っちゃったというアナロジーにも思えますね。
稲田 そうかもしれませんね。ただ、F先生自身は広い世界を見るべきという価値観の持ち主でした。趣味は海外旅行でしたし、世界中の遺跡なんかも巡っていました。インタビューでも「良い漫画を描きたいたら、漫画だけ読んでいてはいけない」といった趣旨のことを言っています。映画もたくさん観る。落語も聞く。フィルターバブル的なものからはもっとも遠い人だったと思います。
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