答えなき時代の思考術─ネガティブ・ケイパビリティ、パラコンシステント、エフェクチュエーション
第5回 予測不能な時代に問われる即興力
ブリコラージュ──多様性のための方法
ここまで書けば、この理論を紹介したのが本稿の趣旨に沿うことを理解してもらえるだろう。まさに、多様な視点をとりこみ、即興的に、状況に即しながらみずからをみずからで変化させて対応していくエフェクチュエーションが求めるのは合理性や無矛盾性ではない。
エフェクチュエーションには、計画のないこと、つまり予測可能な答えがないことに耐えるネガティブ・ケイパビリティも問われるだろう。当初の考えと矛盾するような事態を大きく包括して、考えを大きくしていくようなパラコンシステントの思想も参考になるだろう。
そしてなによりも、コーゼーションという合理性には頼らない融通無碍な姿勢こそ、自然のあり方、世界のあり方に準じたものであるはずだ。
わたしはさらにエフェクチュエーションにブリコラージュ(bricolage)的なものをみてしまっている。ブリコラージュとは、レヴィ=ストロースが『野生の思考』(大橋保夫訳/みすず書房)で提唱したもので、論理的に計画して理論を構築する科学的思考と対照され、手元にある材料や知識で問題に対処し新しい構造をつくる野生の思考を言う。無秩序に対しあるがままに受け入れ、直感的な判断を促し、主観的に事態を把握して対処しようとするブリコラージュの考え方は、エフェクチュエーションの5つの原則がそのまま当てはまるように考えられる。ちがうだろうか?
付け加えれば、ブリコラージュこそ多様性を前提にしなければ貧しいものになってしまうものだ。あらゆる階層、あらゆる個性、あらゆる能力が織りなす多様性のポテンシャルを発揮させていくにはブリコラージュが参考になる。
経営の分野においても、積極的に不安定さに身を投じて、短絡的な答えを求めないことが重視されているのだ。これはこれで、時代がひとつの大きなトレンドを示している例なのかもしれない。
クロード・レヴィ=ストロース (著)
大橋 保夫 (訳)
みすず書房
ISBN:978-4622019725