答えなき時代の思考術─ネガティブ・ケイパビリティ、パラコンシステント、エフェクチュエーション
第5回 予測不能な時代に問われる即興力
REVIEWおすすめ
2025.05.23
テキスト
桐原 永叔
IT批評編集長

変化に即応し、多様な視点を取り込む柔軟な思考を獲得するには。「エフェクチュエーション」や「ブリコラージュ」に見られるように、今あるリソースを活かし、矛盾を抱えながらも即興的に道を切り開く姿勢こそが新しい時代の方法論となるのではないか。
目次
エフェクチュエーション──不確実性に対処する思考様式
経営戦略の理論においても、こうした時代変化に合わせた新しい理論が登場している。
近年注目されているのは「エフェクチュエーション」といわれる意思決定の理論である。その特徴を『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』(吉田満梨、中村龍太著/ダイヤモンド社)では次のように説明されている。
エフェクチュエーションの大きな特徴は、従来の経営学が重視してきた「予測」ではなく、「コントロール」によって、不確実性に対処する思考様式であることです。
さらに副題にある「5つの原則」とは、①手中の鳥、②許容可能な損失、③レモネード、④クレイジーキルト、⑤飛行機のパイロットを指す。それぞれ簡単に説明しておこう。
- ① 手中の鳥:自社がすでにもっているリソースやネットワークからアイデアを発想する方法で、目的に応じてリソースを確保する従来の動きとは異なる。
- ② 許容可能な損失:事業企画のアイデアを実行し、もし失敗した場合に許容しうる損失を決めておくことで、従来の売り上げを予測する意識決定とは真逆である。
- ③ レモネード:偶発時や予期せぬ試練を避けるのではなく、積極的に取り入れて変化していく考え方で即興性を伴う。 甘美なレモネードも酸っぱいレモン(つまり試練)あってこそという英語のことわざに由来する。
- ④ クレイジーキルト:ありとあらゆるネットワーク、ステークホルダーとのマッチングから相互作用を模索する方法であり、従来であれば競合分析・業務提携などを行なって「選択と集中」を行う局面での考え方だ。
- ⑤ 飛行機のパイロット:そのままに「予測」応じて動くのではなく、みずからがコントロールできる活動に集中して、望ましい成果を得るやり方だ。余談だが、禅宗でいう「随所に主となる」(臨済義玄)を思い出せる思考だ。
従来との比較で5つの原則を説明したが、この従来の理論を本書では「コーゼーション(causation:因果論)」と呼んでいる。これまでのように、中期経営計画や事業計画で未来を予測し精緻な計画を立案し、計画に基づいて部署やプロジェクトを編成し実行に移した後は、定期的に計画との差分を検証していく。これがコーゼーション型の経営戦略と実施の典型だろう。
エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」
ダイヤモンド社
ISBN:978-4478110744