答えなき時代の思考術──ネガティブ・ケイパビリティ、パラコンシステント、エフェクチュエーション
第1回 執着に塗り固められた分断の壁

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テキスト 桐原 永叔
IT批評編集長

パンクを代表するジョン・ライドンとジョー・ストラマー。反骨のカリスマとして語られる二人だが、その思想と表現には大きな違いがあった。ストラマーを語るライドンの発言を手がかりに、分断と多様性、そして現代社会に通じる「葛藤する知性」のありかを考える。

目次

ジョン・ライドンとジョー・ストラマー

パンク・ロックについて述べたのは、前回の記事(♯55 「名もなき者」たちのマシーン)でのことだ。
そのなかで、ジョニー・ロットンとジョー・ストラマーの名前を挙げた。言わずと知れた、セックスピストルズとザ・クラッシュのフロントマンであり、パンクのカリスマだ。ジョニー・ロットンはピストルズ解散後、ジョン・ライドンという本名に戻してPiL(パブリック・イメージ・リミテッド)として活動をつづけている。

かたや、ジョー・ストラマーのほうはザ・クラッシュで1985年まで活動し、7作のスタジオアルバムを残した。7枚と言わないのは、ヴィニールレコードで2枚組(「London Calling」)、3枚組(「Sandinista!」)の作品を含んでいるからだ。

ピストルズ解散後、それ以前にも増して音楽的に評価を上げていき、ポストパンク、ポストロックといわれるシーンにも多大な影響を残すライドンに比して、ストラマーのほうは、ザ・クラッシュ解散後はミュージシャンとしては注目される活動が少なかった。
2002年に50歳という若さで亡くなり伝説化して反骨の詩人として語り継がれており、ロックの重要なアイコンになっている。

そんなストラマーのことをジョン・ライドンが語った記事がネットにあがった。タイトルは「セックス・ピストルズのジョン・ライドン、ザ・クラッシュを好きになれなかった主な理由はジョー・ストラマーにあると語る」という。なにかとお騒がせな発言の多い、しかしそれだけ人々の死角をつく洞察力にあふれたライドンらしい内容だ。

「ストラマーの声が俺をひどくいらだたせるんだ。それに、奴の偽りの苦悩とか“last war”とかいうくだらない戯言もな。奴がやっていたのは分断を生み出すことだった。だから俺は当時みんなにこう言ったんだ。“俺が欲しいのは、君たちの中流階級の経験を教えてもらって、それを共有することなんだ。君たちが俺たちの仲間を真似る必要はない”とね。ここで言う“俺たち”ってのは、俺の仲間、俺の文化のことだ。公営住宅の外で写真を撮ったりしてさ、まるでそれが誠実さの証みたいに。勘弁してくれ!」

amass 2025/04/16 19:30掲載

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