東京大学大学院准教授 馬場雪乃氏に聞く
(1) 研究者とAIが協働して課題を解決する
身近なところにある集合知のニーズとデータ
先生は、創薬分野でノンプロやセミプロの方々の知見を活用するメソッドについての論文も書かれていますね。
馬場 AI創薬の分野では、AIは薬の候補を次々に提案することができますが、実際につくる場面ではプロの化学者の力が必要です。しかし化学者はすごく多忙で人数も限られていて、そこがボトルネックになっています。そこで、化学者だけに依存するのではなく、化学の知識を持っているセミプロの方々を何人か集めて、その集合知で1人の化学者に仕立てることで、構成可能性の判定をサポートしてもらうことを考えました。論文では、それがどの程度の精度で可能なのかを検証しています。
かねてより日本では海外医薬品の認可のハードルが高いことで生じていたドラッグ・ラグが問題視されていましたが、現在ではそもそも開発に手をつけられないドラッグ・ロスが顕在化しています。治験に関しては仕方ないですが、それ以前のところは合理化する余地がありそうですね。
馬場 そうですね。専門家に頼りすぎていることが不合理を生んでいる傾向は、さまざまな分野でみられます。たとえば医療でいえば、医学の知識を持っている人の力を借りながら、医師の負担を減らしてあげるようなことが、 もっと行われてもよいかと思います。
さきほどは人的コストについて伺いましたが、科研費や研究資金の獲得についても、ある程度AIに任せることができると研究に力を入れられると拝察します。
馬場 たとえば、私が過去に提出した研究費の申請書のデータをLLMに入れて、私らしい文章を書いてくれたらとても助かりますし、業務量の削減にもつながると思います。
データ収集のスキームを省力化したり精度を上げたりすることで、研究の規模感も変わってくると思うのですが。
馬場 AIの手助けによって研究の範囲を広げるということですね。その観点でAIに最も期待できるのは、コラボレーターを見つけることだと思います。自分たちの手の届くかぎりで研究をしながらコンスタントに論文を書いていくことで、ニッチな研究が多くなってしまうことも往々にしてあります。研究者自身の抱えている問題について、それを解決してくれる人が世界中の研究所のどこかにいるかもしれません。その人をAIが見つけてくれて、すぐにコラボレーションをはじめられたりすれば、もっと大きな研究テーマに取り組めると思います。
先日、植物図鑑が好きな3歳の子どもが、栽培が禁じられているケシを車窓から発見したニュースが報じられました。この子どもの知識や観察眼は称賛されてしかるべきですが、潜在的なローカルな知を共有することも重要なのではないかと考えました。
馬場 私の考えるシチズン・サイエンスとは、そうした知を活用することです。インターネットは1人の特別な知識を民主化することができるツールですし、AIはそうした知の集積をマイニングして日常に生かすことに長けたツールです。システムを開発することと同じように、データを集めることも重要ですから、AIがもっと身近なものになってほしいと思います。たとえば毒キノコや毒ヘビなどの情報を抽出してマッピングすれば安全な山歩きのガイドブックができるように、AIがもっと日常的に使われるようになってほしいと思います。
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