元グーグル米国本社副社長・村上 憲郎氏に聞く
(2)非連続に変化する量子の時代を生きていくためのヒント

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聞き手 クロサカ タツヤ
株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。

シュレーディンガーの熊五郎──落語の不条理は量子に通じる

桐原 むかし、冗談でシュレーディンガーの猫の話を全然知らない人に理解してもらうのに、落語好きだったので、熊さんが死んでいる自分を探しに行く「粗忽長屋」で説明したことがあります。「抱かれてる(死んでる)のは確かに俺だが、抱いてる(生きている)俺はいってえ誰だろう?」というサゲなんですが、ここに生死の重ね合わせがあるといって(笑)

クロサカ なるほど。シュレーディンガーの熊さんですね。

村上 壁に釘を打って隣に抜けたのに、隣に行かないで、向かいの家に謝りに行ってしまう「粗忽の釘」という噺もありますよ。

桐原 落語的な不条理ってすごく面白いんですよ。

村上 逆にそっちのほうが日本人には理解しやすいのかもしれません。釘、こっちに打ったんだけど、クオンタムの世界では、あさっての方に抜けてきたりするんだよと。

クロサカ そうですよね。いわゆる「あさっての方向」みたいな言い方を我々しますが、僕はいい言葉だなと思っています。なかなか英語にしづらいと思うんです。そのまま訳してもなに言ってるのか分からないだろうし。ただ我々はなんとなくそこで感じられるものがあって。エンジニアの皆さんもあさってのことを考えましょうって言いたいです。

村上 それが重要ですよ。

クロサカ あさってのことを考えているとぜったい途中で苦しくなるので、誰か助けがほしくなるんですよ。そこで、つながりましょうということだと思うんですよね。

桐原 禅宗の公案みたいなものですね。公案は思考実験みたいなだなといつも思っていて。

村上 公案は正解がないですからね。答えがあるものはつまらないと思ったほうがいいですね。

桐原 そういう点では、東洋的な知性を現在も豊富にデータとして蓄積している日本は量子コンピューターの時代により重要なポジションを得る可能性があると思っています。禅の教養も漢籍として中国より日本に残っていますし、ちゃんと近代に受け継がれていますから。

村上 中国は文化大革命で、漢籍燃やしちゃいましたからね。日本の可能性は小さくないですよ。

(了)

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