元グーグル米国本社副社長・村上 憲郎氏に聞く
(2)非連続に変化する量子の時代を生きていくためのヒント

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聞き手 クロサカ タツヤ
株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。

社会全体が非連続な局面を迎えつつある

クロサカ 我々は先端技術や先進技術を語る際に、今の技術の延長線上で語りがちですが、本当に先進的なものって非線形だと思うんですよ。

桐原 現状の技術の延長線上にはないということですね。

クロサカ 線形に上昇していくものは、改善に過ぎない。もちろん改善は貴重な営みですし、けっしてディスっているつもりではありません。でも、「これ何?」と思わせるものこそ本物だと僕は思うんですよね。

村上 それこそが“クオンタムリープ”ですね。量子跳躍です。

クロサカ そういう意味で言うと、5Gってまったく理解されていないんです。みんな4Gのバージョンアップだと思っている。線形だと思われているんですが、まったく線形ではないんですよね。使い道が全然違いますから。オルタネイティブや改善ではなく、パラダイムが変わるんですよね。5Gは正直スマホなんか使わないんですよ。スマホは4Gで十分ですから。

村上 だから4GはLTEだったわけです。Long Term Evolution。そのネーミングが4Gを象徴しているんです。クロサカさんがおっしゃるように、5Gはもう全然違うものだから、クオンタムリープなんです。

桐原 面白いですね。そういうふうに考えられないのは、自分たちが経験してきた既存のものに置き換えてしか理解することができないからでしょうか。

村上 日本人は、エボリューション、改良、改善みたいなことは上手だし好きなんだけどレボリューションは、もう明治維新以来150年やっていないんですよね。僕らが、1960年代にやろうとして負けましたけど。負けて良かったなと今は思います。あのとき勝っていたら大変なことになっていたなと思いますから(笑い)

クロサカ 量子が、ほんとに非線形技術の際たるものだと思います。これはなんだろう、よく分からないというだけではなくて、話を聞けば聞くほど自分が知っているものではない。チャレンジングな言い方ではあるんですが、読者に感じてほしいんですよね。先ほど、それじゃさびしいよって話が出ましたが、さびしいとか美しいとか形容詞で言われることって、みんな避けてきているんですよ。まあ僕なんかもよくコンサル仕事では形容詞で表現するなということを言うわけです。ところが形容詞でしか表現できない世界があるんです。

村上 ここにきて、自民党が「新しい資本主義」なんてことを言うんですよ。人類史はいろんな意味合いで、クオンタムリープというか社会全体がいよいよ非連続な局面を迎えつつあるんじゃないか。それこそ、なぜコロナやウクライナの侵攻みたいないろんなことがシンクロして起こるのか。この2020年代というのが、人類史の分かれ目だったと、将来、言われるかもしれません。

桐原 いやいや、面白いですね。

村上 そういうときの思考は、やっぱり量子的な思考を持たないと乗り切れないと思うんです。古典力学、ニュートン力学では理解不能な事態が今起こりつつあるんじゃないかという気がします。

桐原 おっしゃる通りだと思います。ビジネスパーソンもロジカルシンキングだなんて言っていますが、そのロジカルがすでに通用しなくなって、苦しくなっている気がします。

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