元グーグル米国本社副社長・村上 憲郎氏に聞く
(2)非連続に変化する量子の時代を生きていくためのヒント
ブロックチェーンは金融マンに自分たちのやりたいことを教えてくれた
クロサカ これも脱線ですけど、NFTやWEB3とかの話が出てくると、アナーキーな人たちがそれを使いたがっているっていうことが表面的には言われます。アナーキーな人たちとは、例えばアーティストとかクリエイターとかですね。そこにお金がついてクリエイターが食えるようになるからみたいな話がある。まあそれは機能としてあるかもしれませんが、正直言って別にたいした話ではないんです。むしろ、構造に目を向けたときに、ああいう「DeFi」だとか「DAO」だとかという構造、アーキテクチャやそのアーキテクチャの背景にある思想を喜んでいる、期待をしているインダストリーが実はありますと。それはどこかというと金融なんですよね。しかも、この金融はいわゆるアルトコインやアルゴリズム型ステーブルコインのような、反骨精神だけで作られた信頼感の不足したものではなく、伝統的な
村上 NFTについても、トークンがバリューをキャリーできるということになったら、絶対もう金融、ファイナンシャルインダストリーが喜ぶと思います。新しいアセット取引のなかに入ってくるものが増えるわけですから。特にキャッシュに代わるものとしてしかも電子化されて瞬時にして世界を1秒で7回り半するような流動性のあるものはありませんから。これのワクワク感みたいなものが、彼らにはあるはずなんです。
クロサカ そうなんですよね。
桐原 私はブロックチェーンが出てきたときに、もしかしたら複式簿記以来の会計革命みたいなことのきっかけが起き得るし、やっと個人が信用を創造し得る金融体系が創造されるきっかけになるのかなと期待しているのですが、そういう話はあまり聞かれません。
村上 結局まずかったのは、ビットコインをとにかく採掘すれば、毎月の電気代との折り合いで儲かるかどうかという話に流れてしまった。桐原さんがおっしゃるようなスマートコントラクトの流れって、先ほどクロサカさんが紹介してくれた分散型台帳方式での信憑の連なりのことですけど、そういう画期的な仕組みよりも、みんなビットコインが上がった、下がったということしか見ていない。不幸だったなと思いますね。
桐原 NFTに注目している人たちの話も、全部それです。
クロサカ 銀行はアナーキーじゃないふりをするために白いワイシャツにネクタイをしているわけですが、あえてアナーキーに共感の姿勢を隠さずにしようとしている。先ほどの我を信じようの話に近いんですよね。例えば国際決済でSWIFTという仕組みがあります。SWIFTはとても難しい素晴らしいものというふうに思われがちですが、単なるメッセージング基盤であって、ショートメッセージみたいなものです。つまり、A銀行に口座を持っているクロサカさんからアメリカにあるB銀行に口座を持っているムラカミさんに1万ドル送りたいと言ったときに、「送ります」というメッセージを送っているだけなんです。そこで、送りました・受け取りましたというノートをしている人たちがSWIFTの先の金融機関であるA銀行、B銀行なんです。実は価値が決着する瞬間というのは、このSWIFTで送られているところではなくて、ノートしているところなんですね。ここを間違えると大変なことが起きてしまうわけです。だから間違えるなとものすごく強く言われて、ほんのちょっとでも間違ったら、ふざけんなと金融当局から言われるわけですよ。はっきり言うと、そんなこと言われなくても分かっているんだよという人たちがいるわけです。自分たちは過去の経験の積み重ねから、そんなことはとうに承知だと。なぜならリスクを取っているのは自分たちなんだから、というわけです。リスクを取っている側は、お作法がなんだとか言われたくないと思っているはず。そうじゃなくてもう我を信じよなんです。この自分の能力を使って、もうSWIFTではなく、隣にいるC銀行さんD銀行さんとPeer-to-Peerでやりたい。そうするとまさしく真ん中はなくなっていくんです。そういうことを本当は彼らがやりたいのではないか。
桐原 中央集権型ではなくても機能するということですね。
クロサカ そうです。アルゴリズム型はひどかったけれど、暗号技術に依らないガバナンスを構築すれば、ステーブルコインは期待されるツールだし、それを使ったほうが、早くて安くてラクで確実だ、ということなんです。つまりそうやって、何に使えるんですかの手前のところで、あなたは何ですか、何ではないんですかということが確認され始めているわけです。画期的な機能や性能というだけでなく、自分はどういう世界を作りたいのか、ということが問われている。同じような気づきを、量子コンピューターでも見つけられないだろうかというのが、先ほどから私が話していることです。
村上 中央集権的な意味合いでの今までの決済手段が、いよいよ歴史的な使命を終えようとしていますね。ファイナンシャルインダストリーにとってはチャンスだというふうになぜ思わないのか不思議です。うまくやれば地方銀行だってメガバンクになれるみたいな話ですから。
